白猫と黒灰猫の二重奏
迅速淮にゃん登場&設定の巻。
三大4での自分たちが気になるらしく、看破淮にゃんと魏武張コウさんがやってきたりもします。
上記内容で宜しければ(*´ω`)


ここ数日。
何故か猫が居るのが見える。

(…いや…もし俺が急にこう言われたら、それがどうした疲れてるのか?と聞き返すだろうな…)

今現在の張コウは、自分でもよく分からない悩みを抱えていた。
それというのも猫が…猫らしきが見えているという事で。
発端は、曹操が見所ありとして自分の元に引き抜いた曹丕の元近習が近しい配属になるという話。
西方へ向かう軍の準備に追われて間近に対面する事は未だ無いのだが、遠目でそれらしきを見掛け。
…見掛け…たのだが。

(…あれはしかし、猫だろう…)

何度、思い返しても猫だとしか思えないので頭を抱える。
正確に言えば、本当に本物の猫という事ではない。
人の六歳程度の童子だろうか、その身体で頭には白い猫耳が生え、外套の隙から覗くも白の尻尾。
どういう事なのか、その時の張コウは当然「?」を浮かべ。
だが遠目で見ても猫?と話をしている相手は普通に接しており。
この光景に疑問を持つ自分の方がおかしいのか…?と。
以来、何度か遠巻きに見掛けてはいるのだが猫耳と尻尾に変わりはなく、疑問だけが増した状態。
思いきって誰かに聞こうか、とも考えてみたが…あの様子では。

(俺だけの可能性が高そうだ…)

「張コウ。」
「!!…夏侯淵殿か…」

ぐるぐると答えが出ずスッキリしない思考を巡らせていたところに急に名を呼ばれ、心中ではかなり狼狽えたものの。
張コウは平静を装い、呼び主に目を向けると夏侯淵が立っていた。

「どうした?気のせいか落ち着きないが、此度の従軍が不安か?」
「…そんな事はない、まだ見ぬ戦地で戦えるならば俺には喜びだ。…故に今は少し、気が逸っているのかもしれんが…」
「ふむ、意気盛んだというなら問題ないな。……ああ、それと。」
「ッ、まだ、何か?」

どうやら誤魔化せた、去ろうとする夏侯淵の背に安堵し掛けたところで、くるりと向き直られ。
若干、言葉がつっかえたが…恐らく大丈夫な、筈。

「殿が見込んで今回から共に従軍するのが居るだろう、郭淮か。」
「!…ああ、聞いている。」
「まだお前に挨拶が出来ていないと気にしていた、行軍が始まる前には声を掛けてやってくれ。」
「…承知した、明日には済ませよう。…ただ、夏侯淵殿には…」
「ん?俺には?」
「…いや何でもない、少し思い違った事を聞こうとしていた。どうか気にしないでもらいたい。」
「…なら良いのだがな。何か思うところが有るなら言ってくれ。」

今度こそ自分から去って行った夏侯淵の気配が完全に消え失せたところで、張コウは大きく息を。

(猫には見えておらんだろうな…危うく聞きそうになったが…)

気付けば夜の帳も降りる刻。
明日を想ってか鈍い足取りで、張コウは夕闇の中に紛れた。

―――…

「…ふう…」

眠り支度を整え、床に就いた張コウなのだが目も頭も冴え。
徒に時だけが過ぎている。

(考えたところで猫に見えるのだ…とにかく顔を合わせるか。)

このまま起きている訳にもいかない、考えても埒があかない。
そう思い至った張コウは郭淮が猫に見える事を一旦、棚上げにする形で明日の対面を決心し。
漸くの眠りを迎えようと―――

カタン…ッ…

「…誰だ!こんな時刻に何も

「にゃ、にゃにゃっ。」

って何だ!?にゃ、にゃっ?!」

僅かな物音も聞き漏らさず、張コウが飛び起きて音を立てた主の正体を求めようと目を向けると。
そっと開けられていた戸の隙間から、猫らしきが覗いていて。
しかしながら猫耳と尻尾はどうやら黒に近い灰色。
髪も栗色の癖毛ではなく黒の直毛で、つまり遠目とはいえ直に見た郭淮とは全く違った猫らしきが覗いている…筈なのだが。

(…?…何故だ…?)

お互い、目を合わせたまま微動だにせず固まり。
この状況は何なのだと張コウが次の一手を迷っていた、その時。

…とてとてとて…

(ち、近付いてきた。)
「…あの、すみません。ちょーこーどのですか?ですよね?」
「…あ…ああ。そうだが…」
「にゃ!よかった、まちがえるわけには いかないですから。」

猫の方はお目当ての人物に会えて安心しているが、張コウの方は棚上げにした疑問が増した状態。
直感的に敵意は無いと感じ取れるのだけが救いだ。

「お前は…?何故、俺を…」
「ああ、すみません おれの なまえは"かくわい"ですにゃ。」
「かくっ…郭淮だと…?」

非礼を詫びる素振りを見せながら名乗った猫は"郭淮"だという。
張コウが感じた、容姿が異なるのに郭淮であると何故か認識したのは間違いではなかったらしい。
ただ、間違っていなかったところで何も解決はしていない。

「でもおそらく、ちょーこーどのがみた"おれ"とは"ちがうすがた"だと おもいますけれども。」
「…そうだな、その説明が出来るなら説明してくれ。」
「せつめい…う〜ん、"こっち"のちょーこーどのと"おれ"が、なかよくしてるか きになってきた だけなので。」
「な、何?では何でお前が猫に見えるのかという事の答えは!」
「それはええと、ねこにみえるのは しょうがないね ということで、なっとくしてもらえたら。」
「納得出来るか!」

「邪魔するぞ。」
「今度は何だ誰だあぁぁあ!!」

自分も郭淮だという猫らしきと進展なき問答をしていると。
さも当然であるかの様にして、一人の男が部屋に入ってきた。
張コウが全く見知った事の無い男が勝手に入り込んでいる訳だから、本来は問答無用で攻撃対象。
その筈なのだが、男を見て普通の人間である事に内心安堵し。
何より、その男は―――

「騒がせたな、この猫を連れてすぐに出ていく。」
「えっ、もうすこし おはなし したかったのですが。」
「…あんな不毛な会話を続けても、何の実も無かろう。」
「にゃ?すこし やいてます?」
「…さあ、どうだかな。いいから行くぞ、郭淮。」
「しょうがないですねえ、では…おやすみなさいですにゃ。」

張コウに一礼をして猫らしきは闖入者の男に駆け寄る。
そのまま一人と一匹は部屋から出ていこうとしたところで…待て、これだけは聞いておきたい事が。

「…おっ、おい!…俺…か?郭淮が猫に見える、俺なのか…?」

恐る恐る、張コウは先程から感じ取っていた男の正体を口にした。
人に猫耳と尻尾が見えているのと同じ位、自分でも何を言っているのかよく分からないとは思う。
しかしながら、よく分からないのに感じ取れる確信。
黒灰毛の郭淮を指して「猫」と呼ぶ辺りに、自分との共通。

「…確かにそうだが。」
「そ、そうなのか…簡単に答えられても余計に混乱するが…」
「様子を見に行くと郭淮が急に言い出したのを止めなかったのは詫びる。…詳細は後で話そう。」
「…待ってくれ、今は最後にこれだけ聞かせてくれ。」
「何だ?」
「その…郭淮が猫に見えて、俺に変化があったりするのか…?」

退出しようとした方の張コウは、張コウからの問いに歩みを止め。
ちらり、黒灰猫に目を向ける。
あまり表情を崩さず、絵に描いた様な武人の口許が―――
僅かに弛んだ、気がした。

「自分でも知らずにいた自分の事が分かる、悪くはない。」
「は…?」
「じゃあな。」
「おじゃましましたにゃ。」

呆然とする張コウを置いて一人と一匹は部屋から去ってゆく。
独りだけの室内に戻り静寂に身を置いていると、そもそも何者も訪れなかったのではと思えるが。
双眸と両の耳に残る姿と声が、現実だと知らしめていた。

―――…

「ごあいさつがおくれてしまい、もうしわけ ありません。」
「…いや、俺の方も顔を合わせずにいて…すまなかった。」
「"かく はくせい"と もうします。どうか おみしりおきを。」
「ああ、名は聞いている。」

不思議な一夜が明け。
あれは一体、現実だと受け入れても何だったのかと張コウが遠く空を見詰めていると、丁寧な物腰の声で呼び掛けられ。
振り返ればそこには、張コウに礼を見せる白猫な郭淮の姿。
…やはり今日も、猫だ。
そして直接、言葉を交わしてみると昨晩の郭淮とは印象が全く異なる事が、一旦は受け入れた現実を揺らがせて。

「あの…しょうぐん。」
「…どうした。」
「きのせいか わたしに よそよそしくおもえまして。…なにか、しつれいを はたらいたのかと…」
「それは…」
「どうかハッキリ、おっしゃって いただきたいのです。」
「…失礼だとかは無い。ただずっと、お前の事が…童子の如き身体をしていて、猫耳と尻尾が生えた姿に見えているのだ。」
「……えっ……?」

昨晩の一件が無かったなら、この話をする気も無かった。
けれど、あの一人と一匹の姿を見ていたら…話して良いと思えた。
それでも、打ち明けた直後の郭淮の反応は不安だったが。

「ほんとうだ、しょうぐんのまえでは"ねこのわたし"ですね。」
「…という事は…猫になっているのは分かっているのか。」
「ええ、"まれに"ですが…わたしが"ねこ"にみえるかたがいるし、わたしもわたしが"ねこ"になるのを しっています。」

恐らく張コウの元に来る前までは、普通の姿でいたのだろう。
それが猫の身となっている事に張コウの言葉で気付いた郭淮は、自らの猫耳と尻尾を確認する。
変わっていた目線も。

「不便はないのか?」
「ない、とはいいませんが。しょうがない…ですので。」
「…聞いた気がする台詞だ。」
「きぐうですね。なぜだか…わたしも そうおもいます。」

陽光を受けた栗色の髪が柔らかに煌めき、真白に猫耳を際立たせ。
思えばつまり、郭淮も張コウに対し不安を抱いていたという事か。

「…この"すがた"にみえることで、よいことも あるのですよ。」
「どういう事だ?」
「わたしが"ねこ"にみえるかたは…わたしの"たいせつなかた"です。ですから しょうぐんも。」

これから先。
私の大切な人に。
なるのだと思います―――…

「…だったらまず、その他人行儀な呼び方を止めてくれ郭淮。」
「はい、ちょーこーどの。」

ふんわりとした笑顔。
内心ではとても喜んでいるのか、ぴこぴこと動く猫耳が愛らしい。
成る程、知らなかった。
自分がこんなにも猫好きだった事を、張コウは初めて知った。

■終劇■

◆当サイト恒例のあにまる化、迅速淮にゃん登場小噺でした。
となれば先輩である看破淮にゃんも出したくなる訳でして(笑)
こんなんだったかなあ、と思い出しながら書けて独り懐かしがる。
あの当時、淮にゃんを受け入れて可愛いと仰って下さった方々は三大4を遊んでいらっしゃるのかなあとも思ったり(深み)

話は変わりまして、さんぽけ絵柄の迅速淮も出たのですが。
あー、正面から見ると猫耳カバーはそこまで横に出てない(苦笑)
まあでも、兜のアノ部分は着脱可能で猫耳を出しておける箇所だとウチでは設定続行したいです。

さて、これで迅速淮にゃんが小噺デビューをしたけれど。
看破淮にゃんの時は、便利で楽で後半はあにまる話ばかりになったのが反省点でしたから(;´ω`)
今回は程々に書く予定。
通常話とあにまる話を書いたから、そろそろエロですかね!(…)

2017/10/10 了



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