『千切れ装束』
「…ふ…ァっ…ん、んっ…」

酔いの巡りは、思うよりも張コウを蝕んでいるのか。
手加減が定まらず、貪る様な口付けを郭淮は送られ続け。
しかし、その乱暴さに嫌悪を覚える事無く享受する。

「……郭淮……」
「…ン、っ…ちょう、こう…どの…」

重なりをほんの少し離し、名を呼びながら先を望む目線を送る張コウに。
郭淮もまた、目線で返し促せば。

…しゅる…

豪奢に仕立てられた着物は、この娼館でも特に人気である証。
張コウはその美しい錦の帯に手を掛け、口付けを絶やさぬままに解く。
腰を引き寄せてひとまわりが終わる度、重なる口唇は揺れて。
はらりと落ちるが同時、郭淮の身体を押し倒す。

「…っ…張コウど、の…床、へ…」
「此処で良い。」

組紐を解かれる段となり、郭淮は張コウを床間へと促すが。
それは聞き入られる事は無く組み伏せられた。
横暴なそれを「趣向」とする者を相手にした事は、幾度もある。
だが、今宵はそれと同じであるとは思っていない。


それほどまでに。
欲して。


「ん、ンっ…」

襦袢の上から優しく這う掌の愛撫に、こそばゆさと焦れったさを覚えた声を郭淮は漏らす。
そんな己に反射、羞恥を覚え。
ふと眼を張コウから外せば、それまで纏っていた筈の着物が映る。

己の肩を支点として広がりゆく、着物のひとつひとつ。
何時もは、それをぼんやりと眺め。



嗚呼、何と空虚な所業。
紅き装束が、余計に無残を想わせる。


―――しかし。


如何な事か。
今宵に見えるのは紅き華。



千切れた華を敷き詰め、夢中へと誘われる心地。



「…郭淮…?…床へ、参るか?」
「…ああ、大丈夫ですよ。…あまりに、心地良かったものですからね。」

(張コウ殿に惚けていただけですよ。)

不意に反応が途絶えた事に、気を悪くしたものかと張コウは思った様だ。
嬌笑を交えて郭淮は誤解を解き。
詫びる様に、そっと口付ける。

「…ですから。」

張コウの首に腕を回し、誘い招く様は艶。

「……止めないで下さいよ。」

ぎゅ、と。
張コウの着物を掴んで縋る様は、頼りを求める路傍の猫。

「…止められる道理など、無かろう…」

(その様な肢体を見せられては。)

襦袢を繋ぎ止める組紐を解いて郭淮の裸身を露にすると、張コウはその肌に口唇を落とし証を付ける。
自分のもの、等にはならない。
そう理解すれども、盛る欲の証。

「…あ、ン…っ…ちょ、うこ、う…どの…」

自身までが露になり、既に熱を持って勃ち上がる様は張コウにも知れてしまっているのだろう。
ちゅく、と吸い上げる水音は増して、益々に。



あきゅろす。
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