『つかまえる』
「ん…っ…にゃ、あ…」

ひゅうと吹く一陣の風に、淮にゃんは眠り落ちた意識を覚醒させる。
既に辺りは夕闇に染まり始め、昼の陽光を含んだ風は吹かず。
身を切る様な冷たさが肌に触れた。

「……にゃ、にゃあ!ずいぶんと ひるねをしてしまったみたいですねえ。」

辺りの暗さに、がばっと身体を起こし。
昼寝というには少々、寝過ぎた事を理解する。
急いでぱたぱたと衣服に付いた土を払い、河川敷を後にしようとした。

のはいいが。

「…え〜と…」

きょろきょろと辺りを見回すも、喧騒から離れているが故に灯りも少なく。
土地勘の無い淮にゃんには、薄闇の景色が総て等しく眼に映る。

途方に暮れかけた、しかしその時。

「……にゃ!あれですにゃ…あのビルの ほうこうですにゃ。」

目線を上げると、見覚えのあるビルの看板広告が目に入り。
淮にゃんは、取り敢えずの安堵を覚える。

「あっちへあるいていけば、みおぼえのある ばしょへでるかもしれないですにゃあ…」

こうしていても始まらない。
留まっているよりはビルを目印として、とにかく見覚えのある場所へ辿り着こうと歩みを開始した。

「にゃあ…ちょーこどののいうことを、ちゃんときけば よかったですにゃ…」

とぼとぼと、歩く足に力は無いけれど。
しかし、歩まなければ張コウの元にはきっと帰れない。



また、あの景色に戻るのは。



「…いやです……にゃ。」
「何がだ?」

ふ、っ…

「にゃっ、にゃあ…?」
「全く、何処までほっつき歩いていたのだお前は。」
「…ちょ、ちょーこー…どの…」

ふわりと浮いた身体に掛けられた、聞き慣れた声。
嗚呼、初めて出会った時も。

こうして。

「……ちょーこーどの……」

目線を合わせられたその人は、会いたかったその人。
抱え上がられた張コウの胸元に、淮にゃんはぎゅうとしがみつく。


もっと、つかまえて。


「冷え切っているな…大丈夫か?」
「…だいじょうぶ ですにゃあ。」


ちょーこーどのこそ、からだが ひえていて。
ずっと、さがしてくれていたのですね。


優しく抱きすくめられ、冷えた耳に触れた口唇がとても熱く感じられる。
ゆっくりと払われる身体の冷気。
箇所が、ジンジンとした痺れにも似て。

とても、心地良い。

「…帰って、一緒に風呂へ入るか。」
「…はいですにゃ♪」



つかまえてくれた貴方を。
つかまえる様に。



もう一度、猫はきつくきつく貴方の身体を抱き締めた。





(ありがとう、ね。)



■終劇■



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