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世界でただ一つのモノV


「光の計画が始まってから…人々は名前を奪われ、家を追われた」



「一部の能力がある人間や金持ちだけが優遇されて…いつしか互いに整理番号で呼ぶことに違和感を抱かなくなった」



「おかしいと思わないか?一部の人間に…自分である証を取り上げられていい筈はない」


B-105
「…私だけの、名前……」
『もう、10年くらい前になるか……朧気(おぼろげ)で、よく思い出せない…』
『そう言えば確か、母さんが…』


(回想)霞
『ほら、……る、気持ち良い風が吹いてるわ』


(回想)B-105
『お母さん、なんで私にこの名前をつけたの?』


(回想)霞
『だって、貴女が生まれたのは5月だったんだもの。とても良い匂いが漂っていたの。そういうことを、「薫る」と言うのよ。だから父さんと一緒に、貴女にこの名前をつけた』


B-105
(はっ、と顔を上げ)
「私の名前は……薫、だ……」


(瞬間、涙が頬を伝う)



(涙声)
「なんで、こんな大事なこと、忘れて…」



「…政府のやり方だ……人々に、自分を人間だと思わなくさせる…」



「大切なモノだから……今度こそ、忘れないで?ね、薫ちゃん……」



「うん、…うんっ…!」



『その日…私はどこか満たされた気持ちになっていた。その感覚は今も忘れない。大事なものを取り戻した暖かな満足感。この日の夜は、その安心感からか、久しぶりによく眠れた気がした』



『……世の中は、そう甘くはないってことを知ったのは…この日からそう日も経たぬ頃だった………』



ED『砂の都』


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