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神無月鎮魂祭T
5
「…行くな」

その言葉は無意識に翼刃の口から出ていた。

苑希もその言葉には驚いたが、自分自身の発していた言葉に、翼刃自身も驚いていた。

慌てて口元を押さえて、苑希を見る。

「あ…いや、その…それは…」

今、自分は何と言った?

無意識のうちに苑希を引き止めていた。

「翼刃くん?どうしたの?なんか変だ」

様子がおかしい翼刃に近付いていく。

苑希が近づくと、ビクッと小さく翼刃の肩がはねた。

「あ…ご、ごめん。何でもないから。本当…」

何をそんなに怯えているの?

何でもないと言いながら、彼の手は苑希の服の裾をしっかりと握っている。

それも無意識にやってしまったことに気づいて、翼刃はぱっと手を放した。

「大丈夫だ。僕は君の傍にいるよ。どこにも行かないから安心して。だから何があったのか話してごらん?」

見抜かれたように苑希に言われ、翼刃はコクリと頷いた。

言おうかいわまいか、いまだに翼刃の心の葛藤は続いている。



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