神無月鎮魂祭T
3
楽しくて忘れていた。
夢…。
あの時の事が甦る。
やはり忘れられなかった。
「う…ん…由羅…」
自分を庇い、自ら犠牲となった少女の名を呼ぶ。
あの時、何故前に出た?
消えるのは自分だったはずなのに。
彼女は虫の息状態でふっと笑って言った。
『翼刃は…ちゃんと生きなきゃ…だめ。私の…お願いを…きい…て』
『由羅…もう喋るな。…なんで…オレの事ばっかで…自分のこと…』
翼刃の瞳からは大粒の涙がぼろぼろとこぼれ落ちていく。
目の前に横たわり、弱ってもなお自分に笑いかけてくる少女を、彼は優しく抱いた。
『だって…翼刃には…強く、生きてほしい…から。だから…約束…して。自分を…責めないで。私は…ずっと…貴方の傍に…いる…から』
自分の気持ちを伝えるために、今ある力を精一杯振り絞り、そして彼女は永遠の眠りについた。
『あ…由羅?!由羅!!…どうして…?オレのことなんてどうだっていいのに…』
大好きだったよ。
小さい頃からずっと。
もう大切な人を失うのは嫌だ。
母親が死んで、父親は自分を捨てて家を出て行った。
その時から近所に住んでいた由羅の家にお世話になっていた。
十年近くもずっと一緒だった。
十五歳の誕生日までは。
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