神無月鎮魂祭T
2
家で留守番をしていた苑希の前に珀が立っていた。
「あれほど言ったのに、おまえはまた人間の情に足を踏み入れたな。わかっているのか、苑希?これ以上同じ事はするな」
そんなのわかっているけど…。
苑希は答えない。
この仕事に失敗すると彼は消されてしまう。存在自体がなくなってしまう。
だけど、その恐怖よりも、いつの間にか翼刃と一緒にいる心地よさの方が勝っていた。
それが苑希の悪い癖だ。
「いいのか苑希?このままではおまえは消されるぞ。」
翼刃を消すか、自分が消えるかの厳しい選択。
「珀…わかっています。でも僕は…」
「苑希…おれはおまえの監視を任された。いいのか?上に報告するぞ。そうしたらおまえは消される。それを覚悟で言っているのか?」
苑希は黙って頷いた。
珀はもう何も言わない。
いつの間にかそこから姿を消していた。
「ただいまー」
ちょうどそこに翼刃が買い物から帰ってきた。
まだ出会って二週間位の時間しか経っていないけれど、いつも一緒だった。
しかし互いの素性は何も知らない。
語りたがらないから。
相手に心を開ききったわけではなかった。
まだ言えない事ばかりだ。
「おかえり、翼刃」
―今はまだそれだけしか言えない―
―今は「おかえり」と言ってくれる人がいる。それだけでいいんだ―
[*前へ][次へ#]
[戻る]
無料HPエムペ!