神無月鎮魂祭(突発短編)
ついてない日
今日はなんという日か。
ついてない。
「あっれー?おまえ、翼刃じゃん?」
街を歩いていると、軽い口調で名前を呼ばれ、振り返ると、どこかで見たことのあるような、ないような。
「俺だよ、俺。覚えてない?ほら、中学の時の…」
ああ、確か同じクラスの、名前は忘れた。
「何…?」
「何?って、そっけないなぁ。おまえ、学校辞めてから何してんだ?今、何してんの?」
がしっと馴れ馴れしく肩を組んで来る彼。
「そう怪訝そうな顔すんなよ」
どうやら嫌ってことが顔に出てしまったらしいが、いいや。
「…バイト」
放してくれそうにないので一応答えておく。
「へえ。おまえ、あの時、学校辞めた理由さ、あの噂本当なの?」
嫌な予感がする。
嫌だ…。
「う、噂って?」
彼は小さな声で、俺の耳元で囁いた。
「……」
「!?」
俺は驚愕し、動けなくなった。
「…否定しないってことは、やっぱり本当なのか?」
「ち、違う!でも、あれは…」
足がすくんで動けない。
「違うのか?そうだよな。おまえがな…。俺はおまえを信じるよ。そう、泣きそうな顔するなよ、悪かった。じゃあな」
彼はそう言うと、人混みに消えて行った。
彼の言葉が離れず、俺はふらふらと住宅地の方へ戻ってきた。
「翼刃くん?」
再び、今度は女の人に声をかけられた。
振り向くと中年の女性が立っていた。
「おばさん…」
彼女は近所に住む女性で、由羅の母親だ。
また足がすくんで動けない。
「翼刃くん、ちゃんと食べてるの?」
「あ…はい」
今すぐここから立ち去りたい。
彼女は心配そうに俺に問い掛けてくる。
何でだよ?
俺は貴女の娘を…。
俺のせいで。
何で責めないんだ。
怒ってよ。
拒絶しろよ。
嫌ってくれた方が楽なのに…。
何故、貴女は俺の事ばかり。
由羅の母親は俺にそっと触れてきた。
「こんなに細いのに…」
「…ごめん、なさい」
俺は何故かわからず謝った。
「ごめんなさい…。ごめんなさい…」
「どうして謝るの?あなたのせいじゃないわ」
謝り続ける俺に、彼女は再び俺に触れようと手を伸ばす。
俺はすかさず身を引いていた。
彼女は驚いた顔をし、手を引っ込めた。
「ご、ごめんなさい!」
そう言い捨て、俺は走り出した。
家までひたすら走った。
心の中で謝りながら走った。
会いたくない時程よく会う。
今日はなんという日だろう。
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