神無月鎮魂祭V
3
「紅…苑?」
まだ慣れない名前を口にしながら、翼刃は黙り込んでしまった紅苑の顔を覗き込んだ。
「大丈夫。そうか、珀が…。でも、君に何もなくて良かった。珀に礼を言わないとな」
「ああ、そうだな。…俺、お前が戻ってきてくれると信じてた。良かった」
改めて、翼刃は紅苑を正面から見つめた。
自分のせいで彼は傷付いた。
かつて、由羅がしたように。
謝りたくて、でも当の本人がいなかった日々。
「俺のせいであんな事になったのに…。ごめん、紅苑」
「もういいんだよ。大丈夫。普通の死神なら消滅されたら、それで終わりなんだけど、僕の場合、元々人間だったから。今度こそ君の傍にいるから。もう寂しい思いはさせないよ」
真顔で、面と向かってそう言われるとなんか照れる。
翼刃は照れ隠しにご飯をかき込んだ。
「う、嬉しいけど…そんな事、真顔で言うなよ、恥ずかしい!」
もう恐くないと言えばウソになるけど、以前のように独りで怯えなくてもいいんだ、と安堵した途端に涙が出た。
「翼刃?大丈夫かい?」
紅苑が心配そうに聞いてくるが、翼刃は首を横に振り、席を立った。
「俺…バイトだから、もう行く」
それだけ言うと、翼刃は出て行った。
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