お祝い小説
星のcake 5

おまけ



「さみィ〜!」
「当たり前だろ?ほら、ちゃんとマフラー巻けって」

歩きながらルフィの首に巻かれた物を直す。
吐く息が白い。
それもそのはず、今はまだ夜明け前の一日の中で一番寒い時間帯だ。
年越しの宴会は新年会という名称にその名を変え、未だマキノの所で続けられている。

「エースはマフラー巻くの上手いよな」
「お前が下手なだけだ」

ぐしゃぐしゃと頭を撫でる。
防寒のための上着とマフラーに埋まっているようなルフィの顔。
だいたい、マフラーを巻くのに上手いも下手もない。

「お前、絶対将来ネクタイ結べないタイプだよな」
「海賊なのにできなきゃなのか?」
「まァ、ただの海賊なら出来なくてもいいかもな。でも、海賊王がそんなことも出来ないのは・・・」
「カッコ悪い・・・」
「だろ?」

笑いながら言うと、ルフィは歩く速度を速めた。
だが、所詮おれより身長の低い小さなルフィだ。
早歩き程度なら追いつくことなど容易い。

「怒るなって」
「怒ってない!」

おれが追いつくと更にムキになって走り出すルフィ。
いつの間にかおれ達二人は全力疾走をしていた。
目的地に着く頃には、二人して息が上がっていた。
先に着いたおれが地面に座り込むと、追いついたルフィはその隣に寝転ぶ。

「はぁ、はぁ・・・エース、足、速すぎ」
「お前に、なんか、負けるかよ!」
「いつか、勝ってやる」
「期待してるぜ」

潮の香りを含んだ風がおれ達の頬を撫でる。
ここはこの島の一番東に位置する場所。
初日の出を見るためにおれ達はここにやってきた。
まだ夜明けまでは少し時間がある。

「星、キレイだ」
「そうだな」

隣から聞こえた声につられて空を見上げる。
そのままルフィと同じようにその場に横になった。
きらきらと光る星。
透き通った空気に二人分の息が白く浮かぶ。

「なァ、ルフィ」
「なんだ?」
「なんでお前、あん時一緒に吹き消してたんだ?」

ルフィは不思議そうな顔をする。
いや、不思議なのはおれの方なんだが。

「ろうそく」
「あ、嫌だったか?」
「別に、ただ気になっただけだ」

嫌だった訳ではない。
ただ、本当に単純に気になった。
普通だったら、誕生日ケーキのろうそくはその当人が吹き消すものだ。
そこは間違っていないだろう。
まァ、ルフィだから、という理由で片付けてもいいぐらいの疑問だ。
はっきりとした答えが欲しい訳じゃない。

「おれも願い事叶えようと思って!」
「あのなぁ・・・」

仮にもおれの誕生日だろ、と言いながらルフィの頭をがしがしと撫でる。
冷たく冷えた髪。
それを触られながら、ルフィは口を開く。

「で、エースは何を願ったんだ?」
「人に物を訊く時は先に自分のことを言うもんだ」

その言葉に頬を膨らませるルフィ。
暗い中でも分かるほどあからさまに不機嫌そうな顔をしている。

「なんだ、言わないのか?」
「・・・おれな、エースの願い事が叶いますように、ってお願いしたんだ。二人分ならエースの願い事が絶対叶うと思ったから」

さっきと打って変わってにこにこ笑いながらルフィが言う。
てっきり肉がたくさん食べられますように、とかそういうレベルの物だと思っていたおれは呆気にとられた。
ルフィがおれのために願い事をしてくれるなんて。
照れくささから集まる顔の熱は無視することにすることにした。

「な、おれ言ったぞ。次はエースの番だ」
「やっぱ言うのやめた」
「嘘つき!」
「嘘つきで結構だ」
「嘘つきは泥棒の始まりなんじゃないのかよ!」
「おれは海賊になるんだからいいんだ。あ、お前は嘘なんか吐いちゃダメだからな?」


ずりィだのせこいだのと隣でぎゃあぎゃあ騒ぐルフィを放って立ち上がる。
前方が白んできた。
もうすぐ日の出だ。

「ルフィ、見なくていいのか?」

前を指さしながら言えば、勢いよく立ち上がりおれの隣に立つ。
そして、だんだんと明るくなっていく空。
横目にルフィを見ると、今おれ達が待っているそれに似たとびっきりの笑顔をしていた。
初日の出がおれ達の顔に当たる。
その眩しさに二人して眼を細めた。

そうだ、この笑顔が、一番大事なんだ。
この笑顔を、弟には、ルフィには、これから先も浮かべていてもらいたい。

「お前はずっと笑ってろよ」

小声で言ったせいか、ルフィの耳にはきちんと届かなかったらしい。
ルフィはそれに小首を傾げる。

「今なんか言ったか?」
「いや、別に何も?」
「・・・絶対何か言った!」
「さあな?教えてなんかやんねェよ」

舌を出しながら回れ右をする。

「なんだよ!おれはエースのこと、そんな風に育てた覚えはねェぞ!」

「お前に育てられた覚えがおれにはねェよ」

歩き出したおれに追いついたルフィをくしゃりと一撫でして、そのまま歩く。
相変わらず吐く息は白くて、でもそのどこか違った見え方に僅かに笑みを浮かべた。
隣を見れば同じくルフィも白い息を吐いている。

「家まで競走だ、ルフィ」
「おう!今度は負けねェ!」
「さっきの二の舞いにならなきゃいいけどな?」

そう言い合いをしながら、おれ達はかけだした。
最初は少し遅めに、そしてだんだん速く。

「なァ、エース!」
「なんだ?」
「誕生日、おめでとう!」

その言葉に少しだけおれの走るスピードが緩んだ。
その隙にルフィはどんどん距離を広げていく。

「エース?どうしたんだ?」
「あ・・・いや、なんでもねェ」

言いながら走り出し、ルフィを追い抜く。
それを見たルフィもおれを追いかけ始めた。

「ルフィ、ありがとな!」
「おう!」
「でも勝負は勝負だ。絶対ェ負けねェ!」
「望むところだ!」

後ろから聞こえる足音に笑みを浮かべつつ、おれも地面を蹴った。
これからも一緒に前に進んでいこう。
例え離ればなれになっても、おれ達の目的地は一緒なのだから。



これでホントにEND!

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あきゅろす。
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