お祝い小説
星のcake 4


「・・・・ぃ・・」

遠くで声がする。
何だかとても懐かしい夢を見ていた気がするのに。

「・・・ぉい・・」

耳に沢山の音が戻ってくる。
口に何かが入っている。
それをかみしめれば、僅かに肉の味が広がった。

「おい、エース!」
「んぁ?なんだ、マルコか」

目を開けると、目の前にマルコがしゃがみ込んでいた。
その片手にはおれ愛用のテンガロンハットが握られている。

「なんだじゃないよい。お前の顔はともかく、この帽子、もう少しでシミ付きになるところをおれが助けてやったんだよい」

おれの顔はともかくって、何気に酷くねェか。
まァ、かの名高い白ひげ海賊団2番隊隊長の被ってる帽子が、料理のシミ付きってのも頂けないとは思うが。

「で、どうしたんだ?この騒ぎは?」
「お前、まーた食ってる最中に眠りこけてやがったのかよい」
「うるせェな。癖なんだ、しょうがねェだろ」
「オヤジが呼んでるよい」

ついて来いとジェスチャーをするマルコに促され、近くにあった誰かのタオルで顔を拭きつつ立ち上がる。
笑い声などでうるさい中を縫って歩き、船員の輪から少し外れたところにいるオヤジの所へ向かった。
年の癖に、元は中に沢山の酒を入れていたであろう残骸達が転がっている。
その光景だけでも、目の前の人物がどのくらい飲んでいるのかが容易に分かった。

「オヤジ、エースを連れてきたよい」
「あァ、手間掛けたな、マルコ。ところでエース、今日は何の日だ?」
「え?あ、えーっと・・・まだ12月31日、だよな?」

マルコに視線を向けながら頬を掻く。
そんなおれを見て、しょうがないと言いたげにマルコは肩をすくめてみせた。
その反応に少々カチンと来ながら言葉を待つ。

「オヤジ、コイツあの騒音の中で呑気に眠りこけてやがったんだよい」
「さすが、図太い神経してるなァ」

豪快に笑うオヤジ。
褒められてるんだかそうじゃないんだかよく分からない。
たぶん、後者であるとは思うが。
気付くと、後ろで宴会を楽しんでいた奴らも静かになっていた。

「カウントダウンの声が聞こえなかったのか?もう、年は明けた。それに、今日はお前の誕生日だろう?」
「オヤジ・・・なんでそんなこと」
「グララララ・・・・・・!エース、おれが自分の息子の誕生日を知らん訳がねェだろう?」

言葉を遮られる。
その後、オヤジの厳つい顔が少しだけ優しさを帯びるのを感じた。

「サッチ、持って来いよい」
「あァ、分かった!」

マルコの声でサッチがみんなの輪から抜ける。
そして、何やら物陰から数人で大きなワゴンを持ってきた。
載せられている物には白い箱が被されていて中身がなんなのかは分からないが、ワゴンと同じくかなり大きい。

「おれ達からの誕生日プレゼントだ!」
「サッチ、これなんだ?」
「まァ、それは見てのお楽しみってやつだ。オヤジ、蓋取ってくれ」
「ったく、被せろだの取れだのと人使いの荒い息子だ」

サッチにそう言われると、オヤジが立ち上がり蓋に手をかける。
おれ達から見ればデカいこれも、オヤジにしてみればそれほどの物でもないのだろう。

「おれの自信作なんだからな!間違っても顔を突っ込んだりするんじゃねェぞ!」

そんな言葉と共に、それが姿を見せる。
それは、見上げるほどの高さの誕生日ケーキだった。

「誕生日おめでとう、エース」
「オヤジ・・・・」

言葉が出なかった。
嬉しいんだけど、胸が苦しくて。
なんかよく分からない感情がごちゃ混ぜになる感覚。
何かがこみ上げそうになる。

「お、エース隊長が泣きそうになってるぞ!」
「なっ!?違ェ!おれはもうガキじゃねェんだ!そんな簡単に泣くもんかよ!」

同じ隊の部下にそう言われ、こみ上げてたものが引っ込んだ。
その事に内心感謝しながら、怒鳴り返す。

「まだ、船員全員、お前のために新年のおめでとうは言ってねェんだよい」
「じゃあ・・・」
「あァそうさ、正真正銘今のが今年初めての『おめでとう』な訳だ!」

オヤジがそう言った途端、周りから一斉に声を掛けられる。
静寂から喧噪へと瞬時に変わる。
隣にいたマルコからも、小声でおめでとさん、と言われた。

「隊長!おめでとうございます!」
「エース!誕生日おめでとう!」
「エース隊長!誕生日おめでとうございます!!」

「エース、こんだけみんなに言われて、お前は何も返さねェつもりかよい?」
「あー、その、なんだ・・・ありがとな?」

後頭部を掻きながらそう口にすれば、その瞬間オヤジの豪快な笑い声と共に歓声が上がる。

「よーし!エースの誕生を祝って宴会だァ!!」
「今夜は飲むぞー!」
「野郎共ォ!船の酒全部飲み干せェ!」
「オヤジはもうやめておいた方がいいよい・・・」

一段と騒がしくなった船上。
酒がなみなみと注がれたコップを持たされ、それを仲間と一緒に一気に飲み干す。
そこかしこで乾杯だの何だのと、結局はおれの誕生日という名目で宴会が開きたかっただけじゃないかと思われるほどの盛り上がりをみせた。
肩を組んで笑い合う。
たった一人の偉大な親父と、おれを含んだ沢山の息子達。
おれ達は確かな家族の絆で結ばれている。


弟の顔を思い浮かべながら、もう一つの家族と共に笑い合う。

こうして、夜は更けていった。

言葉よりも嬉しい何かをおれの心に残して。



END

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