お祝い小説
星のcake 3


「みなさーん!もうすぐ年が明けますよー!」


みんなで一斉にカウンターの方へ目を向ける。
すると、マキノの手にはいつもカウンターに置かれている時計があった。
今年もあと数十秒。
店の中が余計に騒がしくなる。

「そんじゃ、カウントダウンでもするか!」
「よーし!やるぞー、みんなァ!」

一人が言い出すと、だんだんとカウントダウンの声が大きくなっていく。
ルフィもおれの隣に来て、楽しそうに大声でカウントダウンを始める。
それにつられて、おれも声を張り上げた。

『9・・・8・・・7・・・』

数が小さくなるにつれて、全員の声もうるさいほどのものになっていく。
中心のこのテーブルに集まるみんなの声。
耳が痛いくらいの音量。
あと数秒で、新たな始まりだ。

『3・・・2・・・1・・・』

一瞬静まる店内。
その後・・・。

「あけ・・・・」

ましておめでとう。

と、続かなかった。

静かな空間におれだけの声が響く。
不思議に思って周りを見渡すと、いつの間にかみんながおれの方を見ている。
その表情はどれも笑顔ばかりだ。

「みんな・・・?」
「エースっ!!」

隣でルフィが叫ぶ。
すると、みんなが顔を見合わせ、そして。


『誕生日おめでとう!!!』


一斉に掛けられる言葉。
その言葉の意味が一瞬理解できなくて、何も言えずに固まる。

「・・・え?」
「エース?」
「なんだなんだ?もしかしてエース、今日が何の日か分かってないのか?」

ルフィがおれの顔をのぞき込む。
目が合うと何が嬉しいのか、いつもの眩しい笑顔をおれに向けた。
上を見ると、大人達がニヤニヤとした人の悪い笑みを浮かべている。

いや、何の日なのかは分かっている。
元日で、おれの・・・。

「でも、なんで・・・?」
「おう!みんなで話しててな!ビックリしただろ!?」

いつの間に、とか。
いつから、とか。
聞きたいことはたくさんあったけど、そんなものよりも言いたい言葉があった。

「ルフィ、みんな、その・・・ありがと、な?」
「しししっ!エース、顔赤いぞ?」

至近距離で言われた言葉に、余計に顔が熱くなる。
何となくそのまま見られてるのが悔しくて、ルフィからだけでもおれの顔が見られないように抱きかかえた。

「おっ?エースの奴、照れてんのか?」
「い、いや!こ、これは・・・。そう、そうだ!さっき飲んだ酒で酔っぱらっただけで!」
「無理すんなって、エース!」
「サプライズ大成功だな!しししっ!」

目の前でルフィのトレードマークが揺れる。
その影に顔を隠そうとすると、そうさせまいとしているのか、ルフィのよく伸びる手足が体に巻き付いた。

「ちょ、ルフィ、苦しい」
「おめでと!エース!」
「エース、みんなからのプレゼントよ」

声が聞こえた方にルフィを抱えながら振り向く。
するとそこには、特大のケーキを手にしたマキノが立っていた。
後ろではがちゃがちゃと空になった皿を重ねる音が聞こえる。
ケーキの上にはイチゴと12本のろうそくと、下手な字が書かれたチョコレートのプレート。

「これな、おれが飾り付けして書いたんだぞ!少し曲がっちまったけど」
「お!ルフィにしては結構上手く出来てるじゃねェか。ちゃんと読める字だ!」
「失敬だな!おれだってこのくらいできるぞ!」
「少しイチゴの間隔がバラバラだけどな?」
「ほっとけ!!」

ルフィ達がケーキのことで言い合っている内に、マキノが全てのろうそくに火を付ける。
それを見たルフィがおれから手足を離して、そのまま後ろに回る。
少し強めに背中を押されて、半ば突き飛ばすような形でホールケーキの前に移動させられた。

みんなの視線を感じながら、この数日間のルフィの行動の理由が分かった。
それと、おやつをおれにせがまなかった理由も。
手伝いと言っていたのは、きっとコレの準備のことだ。
失敗したチョコのプレートは、全てこいつの腹の中に収まったんだろう。
そのせいで、おれにおやつをせがまなかった。
一体、どんだけ失敗を繰り返したのか。
努力の跡が見られる読みにくい字。
それを見ただけで、ルフィがどんなに苦労してコレを書いたかが分かった。
その文字には、計り知れないほどの想いが詰まっている。
間隔がバラバラのイチゴもマキノ手にかかれば均等に並べられたはずだ。
もちろん、見栄えは悪い。
でも、その見栄えとは対称的に、それはおれの顔に笑みを浮かべさせた。

こんなんも出来ないんじゃしょうがねェな、とか。

だからいつも字を丁寧に書くようにしろって言ってんじゃねェか、とか。

美的センスはじじいに似て皆無だな、とか。

言いたいことはたくさんあったけど、一生懸命にこの飾り付けをしたであろう弟にそんなことは言えなかった。
ただもう、嬉しくて、嬉しくて。

「ほら、エース!」
「あ、あァ」

ケーキの前におれが移動すると、ルフィもイスを持って近くにやってきた。
足りない分の身長を補うためか、そのイスをおれの横に置いて上に立つ。

「ルフィ、あの歌を歌うのか?」
「そうだよな、そこまで話し合ってなかったもんな」
「どうするの、ルフィ?」
「ん〜・・・そこまで考えてなかった」

さすがルフィというか、なんというか。
ここまでの準備に必死になっていたためか、もしくは本当にこの後のことを考えていなかったのか。
どちらにせよここまで来て進行が止まるというのもおかしな話だ。

「普通じゃつまんないし。なぁ、エース?」
「そこでおれに聞いてどうする。それに普通でいい」
「いや!せっかくのエースの誕生日だぞ!エースがよくてもおれが嫌だ!」
「あー、はいはい」

半ば諦めながら、腕を組み考え込む弟を見守る。
ため息を吐こうとして、やめた。
今そんなことをしたら目の前のろうそくを消しかねない。
そうなったら今までのルフィの努力が水の泡になってしまう。

「ルフィ、考えついたか?」
「いや、まだだ」
「そうか」

周りの大人達を見ると、そんなやりとりをしているおれ達を見て笑みを浮かべていた。
ルフィだけじゃなく、この場にいる全員がおれの誕生日を祝ってくれている。
その事に、胸の辺りが暖かくなる。
その笑みに笑い返せば、みんなの笑顔もより深いものになる。
こんなにもたくさんの笑顔に囲まれたことなんて、今までにあっただろうか。

「よし!決めた!」
「どうすんだ・・・?」
「火を吹き消したら、みんなで乾杯しよう!」

ケーキなのに乾杯?
そんな疑問を浮かべる。
マキノを含めた周りの人達も不思議そうな顔をしながら自分の飲み物を取りに行った。

「なんで乾杯なんだ?」
「さっき、せっかくジュース持ってきたのに乾杯できなかったしな!これならエースと乾杯できるし、誕生日も祝えるし一石二鳥だろ!?」

ニコニコと笑いながらそう言うルフィ。
それぞれの机から自分のコップを持ってきたみんながおれ達と机を囲む。
最後にマキノが自分の分を持ってその輪の中に加わった。
そして、おれの隣に注がれる視線。
当の本人は、もう待ちきれないというようにそわそわしている。

「エース、火を消す時はちゃんとお願い事をするんだぞ!」
「願い事?」
「そうだ!ろうそくを吹き消す時にお願い事をすると、それが叶うんだ!でも、一度で吹き消さなきゃダメなんだぞ!」

力説してくるルフィには悪いが、それは絶対何かと混ざっていると思う。
たぶん、流れ星を見た時に三回願い事を呟くとその願い事が叶う、とかいう類の物と。
それに、いきなり願い事と言われても。

「よし!準備はいいか、みんな!エース、せーの、で消せよ!」
「え、ちょ、待て」

「せーの!」

心の準備なんか全然出来ていなかったが、勢いのままにろうそくを吹き消す。
願い事なんて考えている暇もなかったけど、一瞬浮かんだだけでも願った、と言うことになるんだろうか。

ケーキが大きいせいか、あと数本というところで息が続かなくなってくる。
仕方なく新しく空気を吸おうとすると、目の前の火が勝手に消えた。
横を見ると、ルフィも一緒になってろうそくの火を消している。
そのおかげか、一息で吹き消すことに成功した。
他の人達はルフィも一緒に吹き消したことに気付いていないのか、ろうそくが吹き消されたと同時に歓声が上がった。
みんなが違うことを言ってて、そのまとまりの無さに笑いがこみ上げる。

しかし、なんでルフィも一緒になってろうそくを消していたんだろう。
隣を見るとルフィもこっちを見ていた。
おれが見ていることに気付くと、さっき机に置いたコップを少し強引に握らされる。

「みんなー!乾杯するぞ!!・・・エースの誕生を祝って、かんぱーい!!!」

『かんぱーい!!!』

おれも一緒になって叫ぶ。
細かいことはひとまず置いておこう。
ガチャンと少し乱暴にコップをならし、一気にジュースを飲み干した。
隣では勢いよく飲んだせいか、ルフィがゲホゲホとむせている。
その背中をさすりながら、おれとルフィは笑い合った。



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