お祝い小説
星のcake 1

「マキノ、ルフィの奴連れてきたぜ」
「マキノー!きたぞー!」

「いらっしゃい、二人とも」
「なんだなんだ?遅ェじゃねェかお前ら!もう始まっちまってるぜ!」
「何言ってやがんだ。お前はもう随分前から飲んでるじゃねェか!」

おいしそうな料理の香りが広がる店内は、外よりはるかに明るく暖かい。
店の中の明るさに、おれは外の暗さになれていた目を少し細めた。
その隙にルフィはパタパタと足音を立てながら走っていく。

「ルフィ、店ん中走るな!って、前見て走れ!」

人にぶつかりそうになりながらカウンターへ向かうルフィ。
その様子に思わずため息を吐く。

「ったく、あのバカ・・・」
「まァまァ、そう言ってやんなよ」
「ルフィがああなのはいつものことだろ?おれ達ァ誰も気にしねェよ」

背中を強く叩かれながら苦笑いを浮かべる。
この店にいる客達はみんな顔見知りだ。
そんな訳で、ここにいる人達は普段のおれ達を知っている。
この村の全員が親戚みたいなもんだ。

「そんな事言って。あんなんじゃ大きくなった時どうすんだよ」
「お前、そんな先のこと気にしてんのか?」
「ホント、エースはルフィの保護者みたいだなァ?」
「あー、実際そうかもしんねェな・・・」

今朝の出来事を思い出しながらそう答える。
朝早くのあの寒い時間にパジャマ一枚で外に出たり、その時に開けたであろう雨戸をきちんと閉めなかったせいで、部屋の中と外の温度差が綺麗さっぱりなくなったり。
朝からこんな調子で、ルフィより寝起きが悪いおれは、まだ起きる時間でもないのに暖かい布団からでるという試練を受けるハメになった。
風邪を引く前にと防寒着を手に急いで外へ出れば、そんなおれの心配をよそにルフィは氷の張った水溜まりをのぞき込んでいた。
かと思えば、おれが起きたことに気付いたのか、白い息を吐きながら駆け寄ってきて、その勢いのままおれに抱きつく。
外の冷気によって、起きた時よりも幾分か熱を奪われた弟の体を抱きかかえ、おれは小言を言いながら家に戻った。
これが今日の朝起きた出来事だ。
ほぼ毎日、似たようなことが起きる。

思い出したのは好ましくない出来事のはずなのに、自然と自分の頬が緩むのが分かった。
なんと言っても、おれがルフィに弱いのは自分がよく分かっていることだ。

「エース〜?早く来いよ!おれ腹減った!」
「あァ、今行く」

周りの客にじゃ、と一言だけ残しルフィの元へ向かおうとしたが、当の本人はもう待ちきれなかったらしく、ゆっくりと歩を進めるおれの元に駆け寄ってきた。
そのまま手を勢いよく引かれ、前に転びそうになりながらルフィの後についていく。

周りでガヤガヤと騒いでいる村の大人達。
男も女も子供も、今日は特別だ。
酒が飲める者もそうでない者も、今日はここマキノの酒場に集まる。
いつもは口うるさい村長もやけにご機嫌だ。
普段からこうだったら・・・いや、それはそれで少し不気味かもしれない。

「二人は何にする?」
「にく!にくにくにくっ!」
「おいルフィ!ひとの耳元で騒ぐな!あ、おれもそれで」
「はいはい、ちょっと待っててね」

くすくすと笑いながらマキノが用意を始める。
ルフィとおれはその様子を見ながらカウンターへと腰掛けた。

隣りで足をばたつかせているルフィは、嬉しそうにあたりを見回す。
そんな弟の頭には麦わら帽子。
被っているというよりは、被られていると言った表現がやや適切なそれ。
その元持ち主の特等席におれは座る。
なんでも、そいつはルフィの目標なんだとか。
いつもそいつのことを話すとき、ルフィは見ているのが眩しいほど顔を輝かせる。
兄としては結構複雑でもあるが、可愛い弟の話だ。
例え何回も聞いた話でも聞き流すことなど出来はしない。

「はい、召し上がれ」
「うお〜!!にくにく〜〜!!」
「はい、エースにも」
「ありがと、マキノ」

礼も言わずにがつがつと頬張るルフィを横目に、いただきますと呟き、手を合わせる。
その声は小さすぎてすぐに大人達の笑い声にかき消されてしまったが、マキノの耳には届いたらしい。
おれ達を見比べてまたしても小さく笑みを零した。

「エース」
「ん?どうしたマキノ?」
「呼んできてくれて、ありがとうね」
「・・・おう」

いつもおれ達に優しく接してくれるマキノ。
だけど面と向かって礼を言われると、少し照れくさい。
嬉しいような、くすぐったいような、変な感じがする。
顔が火照るのを感じて、すぐに下を向いた。

隣りでは相変わらずルフィが肉を口へと運んでいて、急いで食べ終えようとしているのが分かる。
いざ次の肉を頬張ろうと大口を開けたルフィの襟首を掴んだ。
ぐえ、と小さくルフィがうめく。

「こら、ルフィ。食べる前には『いただきます』、食べた後は『ごちそうさま』だろ?いつも言ってるじゃねェか」
「そうケチケチすんなって」
「そういう問題じゃねェ。そんなんだからお前はいつまでもチビなんだ」

目の前の自分よりいくらか低い位置にある頭をはたく。
実際には3才という年齢の差から来る身長の差だが、こう言うと何故かルフィはムキになる。
ペチンという軽い音と同時に首に掛かっていた麦わら帽子が僅かに揺れた。

「チビって言うな!それに言えばいいんだろ?いただきまーす!」
「お前の場合はもう『いただいてます』だろ・・・」

はぁ、と少し息をつけば、他のことをしながらおれ達の会話を聞いていたのだろう。
マキノが背を向けたまま声を上げて笑う。

「あなたも大変ね、エース?」
「まったくだ」

おれはやれやれと肩をすくめてみせた。
未だ収まる気配のしない宴会場。
おれの隣では、何故こうも静かに食事が出来ないのかというほど賑やかにルフィが食べ物を口に運んでいる。

マキノと目が合い、それをきっかけにしてだんだんと笑いがこみ上げる。
最初は必死にそれを堪えてたおれ達だったが、ついにいつもは大声で笑わないマキノがもう耐えきれないというように涙を浮かべながら笑い始めた。
それにつられておれも笑う。
おれ達の変化に気付いたのか、食べ物で頬を膨らませたままこっちを見てくるルフィ。
その表情がさらにおれの笑いを誘っていることに気付かないのか。
首を傾げながら、もぐもぐと口を動かしている。

「どうしたんだ?二人とも」
「何でもないのよ、ルフィ。ふふっ」
「そうそう。それに、お前には教えてやらねェよ!」
「なんだよ、二人ともおれの知らないところで!ずりィぞ!」

フォークを握りしめたままルフィが抗議をしてくる。
おれとマキノに相手にされないことが悔しいのか、ルフィの奴はおれのことをポカポカ叩いてきた。
そんな効果音がつきそうな攻撃を受けながら、おれもルフィに負けじと料理をかき込む。
おれ達の前に置かれた二つのコップ。
中身はマキノ特製フレッシュジュースだ。
大声で笑ったせいか、少し喉が渇いていたおれの目には、それがとても魅力的に映った。
口を動かしながらコップに手を伸ばすと、マキノが口を開いた。

「そんなことよりルフィ、お味はどう?美味しいかしら?」
「おう、メチャクチャうめェぞ!マキノ!」
「それなら良かったわ。じゃあ、どんどん食べてね」

マキノの言葉でルフィの思考は再び目の前の料理にいったらしい。
単純というか、何というか。
呆れるおれを見て、マキノは何も言わずに微笑んだ。

いつもはおれがルフィの食事を用意している。
こうしてマキノの所に食いに来ることもあるが、おれ達は子供だ。
働き口がある訳もなく、じじいが置いていってくれるお金でやりくりしなければならない。
実際、おれ達二人の食欲が並の子供のそれだったらいいのかもしれないが、成長期という理由以上におれ達は食べる。
そうなると、料理の食材の代金を払うことは出来ても、どうしてもマキノに払えるお金は少なくなってしまうのだ。
それを、おれは申し訳なく思っている。

「マキノ!いつもうめェ飯ありがとな!」
「あら、嬉しいこと言ってくれるじゃない?」
「しししっ!これも宝払いだな!」
「ったく、お前はどんだけ宝払いしなきゃなんねェと思ってるんだよ」

誇らしげな笑みを浮かべるルフィに、おれは呆れながら返す。
宝払い、それはルフィがおれと出会う前から言っていた言葉だ。

「大丈夫だ!おれは海賊王になる男だからな!」

そして、これまた毎日聞かされ続けている弟の夢。
こんなことを言うとまたじじいに説教と拳骨を喰らうかもしれないが、おれもまたルフィと同じ夢を持っていたりする。
これはルフィとおれだけの秘密。
その為に、パンチの練習とか実践練習という名目でも喧嘩とか、そんなもんを毎日にしている。



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