お祝い小説
既往とをむすぶ訊い

自分が嫌だった。
自分の血が憎くてしかたがない。
単純なもので、人間てのは親の半分ずつのイデンシたったそれだけで形作られているらしい。
そしてつまらないことに、そのたかが半分の血だけのためにおれは罵られ虐げられる。

お生憎さま、おれの血筋を嗤うあんたらのどちらか片方だって、さぞかし下卑た血をお持ちなんだろうよ。



おれは訊く

ゴール・D・ロジャーを知ってるか



「おれ知ってるぞ!世界で一番すげェ海賊だ!」


海賊王ってよ、一番強くて、一番ユーカンで、一番自由なんだよな!


じゃあお前はとてもじゃないが海賊王になんてなれねぇな、と必死に木の幹にしがみついて助けを要請しているやつに言う。まずその麦わら帽から片手を離せばいいだろうに。

手をかしてやれば、足早におれの座る太い枝に跳び移り、同じように腰を下ろした。


じゃあ、そいつが悪行を尽くしたロクデナシだとしたら。そのどうしようもない野郎の息子がいたとしたら。罪とか恨みだとかの半分を押し付けられたやつが、おれだと知ったら。

お前もまたあいつらと変わらない反応を返して、おれを指さし離れていくんだ。


「んなわけねェだろ!エースはおれの兄ちゃんなんだからな!」


何を言っているのかと呆気にとられてそいつを見ても、変わらずにしししっと笑うだけで、おれはそれになんだか酷く
いらついた。


「それに親とか、人がどう言うとか、関係ない。いつだってエースはエースだ」


白くなるほどに拳を固め、真っ直ぐにそいつを睨んだつもりだったが、滲みだす視界を抑えられなくなって自分の顔に拳を振った。

じんとした痛みが鼻に響くけれど、不意に頭の両脇を過ぎていくものに驚いて再び前を向いた。


ぼすっと音がしてから頭を抱き込まれたと気付くまでには時間がかかった。

そしてぐらりと傾く体に浮遊感を覚えて咄嗟に抱きつき返し、目の前の頭を庇った。
こいつは馬鹿でどうしようもない考え無しだ。不慣れな木の上で両手を離すやつがどこにいる。
ましてや見ず知らず同然の人間に手を差し延べるために頭から真っ逆さまの事態に自らだなんて。


葉を生い茂らせた枝々が耳を掠め背を叩く。だが偶然にも下にはこいつのタカラモノ袋とやら――ついさっき話を切り出すまで延々と中身の自慢を聞かされていた――があったためにクッション代わりになって、おれたちは助かったわけだけれど。

馬鹿野郎と怒鳴ってやりたかった。でもそれを遮るようにおれの上で起き上がったそいつは満面の笑みを浮かべ、おれの頬を両側から手の平で押さえながら言う。


「エースは、おれの兄ちゃん」


笑えと、促すように。
言い聞かせているようにも聞こえて。
そのせいでますます目の縁に熱が集まった。

「おれは!」

「エースの弟!」


そのとき、堰が切れて泣き出したおれの声を掻き消すように高らかに兄弟宣言が叫ばれ、

おれはこいつの兄になった。



後日ジジイのヒミツの酒蔵からそれなりに上等そうな酒を頂戴して盃を交わした訳だが、その場で二人して爆睡しジジイの鉄拳を喰らったのは言うまでもない。


子供だった。
ああ、あの頃はと。
けれど今でも思う。

おれはまだ子供なのかもしれない。



だからおれはまた訊うのだろう

悪く言えば家族を試す手段
良く言えば最初の甘えとも


「なぁ、白ひげ。あんた―――」


ゴール・D・ロジャーを知ってるか







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あきゅろす。
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