お祝い夢小説
おめでとう 3

 白い紙袋から出てきたのはまた白い薄い布袋で、それに真っ赤なリボンでラッピングしていた。
「…マフラー?」
 手にした感触で解ったのだろう。イチカは小さく頷いた。
「手作り?」
「……違います」
 なぜそんなに手作りに拘っているのか、それを聞く元気がイチカにはなかった。被っていた帽子を外して座っている横に置き、リボンと解いて袋から赤と黒のストライプのマフラーを取り出すエースを黙って眺める。
 エースは嬉しそうだった。手製のモノを欲しがっていたクセに、照れくさそうに頬掻いたそこは少し赤い。ありがとな、歯を見せてニィと笑う。大好きな笑顔だ。
 今なら言えるかもしれない。今しかない。言うなら今だ。イチカは諦めかけた決心を言い聞かせるように胸で誓う。
「あ、あの!」
「ん?」
 マフラーに首に二巻きして軽く結んだエースが顔を上げる。
「誕生日、おめで…とう。エ、エース」
 ぎこちなく、声は小さい。顔は伏せてしまって目は見て言えなかったけど、でもちゃんと言えた。恐る恐るとエースの様子を伺うように視線を上げると、数度瞬きしてイチカをじっと見つめてきた。表情からは何も読めない。
 すると、エースは両手をパンと膝に置いた。
「ありがとうございます」
 ペコリと頭を下げられる。折角言ったのに、エースはバカ丁寧なモノを返してきた。何だか付き返されたような気分だ。バカ、バカバカ。バカ。それはエースへの非難か自分への自嘲かはわからない。

「なんか……照れる」
 ずぶずぶとひどく落ち込んでいくところに、ポツリと聞こえた。下げたままのエースの顔は見えなかったが、垂れた髪の隙間から見えた耳は赤く染まっていた。
「…隊長のバカ」
「エース、だろ?」
 顔を上げてニッと笑ったエースの顔はいつもの笑顔だった。なんだか少しだけ残念。そんなことを思っていたら突然エースの手が目の前に伸びてきて、でこピンでするようにピンッと鼻を弾かれた。その後ぎゅうっと抱きしめらて、鼻がツンと痛んだ。それは鼻の痛みのせいじゃない。
「すっげェ好き。イチカが、好きだ」
 私も、そう言いたいのに胸が苦しくて言葉が出ない。エースの袖を握ってギュッと目を瞑ったら、涙がポロリと零れてきた。



-終-
↓あとがき

初々しい感じで書いてみました。ちょっと若すぎたかな?
何はともあれ、エースおめでとう!!

読んでくださった方、最後までお付き合いありがとうございました。


2008.11 紫芽路ユリ

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