お祝い夢小説
おめでとう 2

 トレーに紅茶が入ったカップを二つ乗せて部屋まで持っていくと、扉の前にエースが待っていた。
「入って待っててくださいって言ったじゃないですか…」
 おかえり、エースは一言だけ返してイチカが持ってきたトレーをひょいと持ち上げた。続いてアップルティだと嬉しそうに笑った。
 今日は何だかエースがいつもより子供っぽい。さすがに誕生日は浮かれてしまうのだろうか。イチカは胸の辺りがむず痒くて、でも温かい。嬉しいような落ち着かないような感じだ。

 部屋に入って三人掛けのソファに二人並んで座った。目の前のテーブルには二つのカップと用意してあったケーキが入った白い箱。
「手作りケーキ?」
「違います」
 そっかァ、とエースはなぜか嬉しそうだ。開けていいか?と聞かれて、お皿持ってきますとイチカは立ち上がる。背中からエースの歓声が聞こえた。
 とてもとても、落ち着かない。特別な日に二人きり。二人になるのも久しぶりだった。それに、今日は、今日こそはとある決心がイチカにある。
 チラリと後ろを向くとエースは果物が入っている籠の中にあったナイフを手にしたところだった。鼻歌を歌いながら真っ白な丸いチーズケーキを切り分けていく。ふと顔を上げたエースとバッチリと目が合ってしまい、ドキリと心臓が跳ねた。
「何してんだ?早く食おう」
 手に持った皿の上のフォークがカチャリと音を立てる。その下に腕にぶら下がった白い紙袋。エースの誕生日プレゼントだ。それを渡してある言葉を伝えると決めている。エース、誕生日おめでとう、と言うのだ。

 この船に乗ってから今まで、エースなんて名前で呼んだ事もなく、ましてや敬語を取り払ったこともない。イチカとエースはお互いに好きで、こうして一緒にいるし、そういう関係にもなっている。と思う。気持ちを確認し合う前と今と、何か変わったようには思えなかった。気持ちを伝える前にいたしてしまったのがまずかったのだろうか。
 エースは相変わらずで、イチカも変わらない。二人の時間を作ることもせず、成り行きまかせだった。エースと毎日顔は合わせているし、おかしな関係だがそれでいいと思っていた。
 そんな時、エースから名前で呼んでくれと言われたのだった。変化を望むエースに最初は戸惑ってしまったけど、すごく嬉しかった。しかしこれがどうしてか中々意外と恥ずかしい。今まで言えなかったのだから。だから誕生日に何気なく言ってみようと思ったのだ。プレゼントと一緒なら言える気がする。さらっと今までが嘘みたいに。

「あの…」
「早く座れって」
 テーブルの横、ソファーの前で固まっていたイチカに焦れたエースが皿を奪ってイチカの腕を引く。強制的に座らされ、台詞を言うタイミングを逃してしまった。
「ソレ、プレゼントか?」
  イチカの心知らずにエースは無邪気に聞いてきた。
「あ、はい。隊長に…」
 あっ、また言ってしまった。言いかけたまままた固まってしまい、間抜けに口は開いたまま。エースはイチカが手に持つプレゼントに視線を向けていたおかげで、それを見られる前に口は閉じることが出来た。

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