お祝い夢小説
おめでとう


 グランドラインのとある小島に停泊した白ひげ海賊団。年明けの祭りもあり、島中が賑わっている。景気よく花火も打ち上げられ、船長を中心に耐えない笑い声。空になっていくのは酒樽だけでなく、船にはほとんどの者が島に降りてこの船上だけ静けさが際立っていた。

「よォ、こんばんは。イチカ」
 その静寂の中にいたイチカに声を掛けてきたのは一人の若い男。冷たい風が吹きつけているのいうのに、黒の上着一枚に下には何も着ていない。その格好よりも、こんな楽しい席を外しているなんて珍しい。イチカは男の顔を確認すると思わず目を見張ってしまった。
「なに驚いてんだよ」
 楽しそうに笑った男、エースは帽子を深くかぶり直してイチカの目の前に立つ。
「あ、えーと。…こんばんは」
 どう返したらいいのか、正直に言っても良いのだろうか。少しの躊躇の後、イチカは取り敢えず挨拶を返して軽く頭を下げる。
「なぁ、皆と飲まねェのか?」
 先程のは答えを求めてなかったのか、それとも独り言だったのか、エースはイチカの小さな葛藤は知らずに質問してきた。
「お前がこっちにいるほうが都合いいけどな」
 と、また答える間もなくエースは話を進めていく。
「隊長はいいんですか?隊長がいないと船長が…、…っ」
 話は突然中断された。エースの立てられた人差し指がイチカの唇に押しつけられたのだ。
「お前に用があるって言っただろ?」
 エースが自分の元に来ることは予想していた。だからイチカは船に戻ってきたのだった。とは言え、これからのことを考えると肩が重くなる。
「今日オレの誕生日なんだよな」
 ああ、やっぱり。イチカは隠すこともせずにため息を吐いて項垂れた。それは一ヵ月も前から言われ続けていたこと。一月一日が誕生日。祝って欲しいとは直接言われていないが、エースの毎日のようなアピールは言わずとも明白だった。


「…………それだけ?イチカの手作り料理は?ケーキとプレゼントはねぇのか?」
 おめでとうございます。そう簡単にさっぱりと祝いの言葉を述べたらエースは片方の眉を上げた。思った通り期待をしていたようだった。
「料理はないですけど、ケーキとプレゼントなら部屋に、」
「じゃあ、お前の部屋行くか」
 先程と打って変わって機嫌のいい笑みを乗せたエースはイチカの手を握った。その手の熱にイチカは驚く。おかげで頬にも熱が集まった。歩き出そうとしたエースも驚いた顔を向けて、お前の手、冷てぇなァ。そう言って指を包むように握られた。

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あきゅろす。
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