通常 極彩色の世界をキミに。8 「ブラック…?」 「……っ。本物ならいいんだ」 不思議そうな声で僕の肩に触れてくるN。 ごめんと呟いて僕は腕の力を緩めた。けれど腕を解くことはしない。 「N、覚えてるか?アンタさ、俺に夢を叶えろって言ったよな」 「うん。覚えているよ」 少しだけ体を離して、Nの顔を見た。Nが姿を消してから僕自身も成長したおかげか、目線が同じ高さだ。 空の色をそのまま閉じ込めたような瞳を見ながら、僕は言葉を続ける。 「チャンピオンにもなった…あの時よりも、もっと沢山のポケモンたちにも出会ったし、仲間にもなれた。だけどな、まだどうしても叶えられそうにないのがあるんだ」 「…そう」 「あぁ。その夢ってのはな…」 いつかまた再び会えたら伝えたいと思っていたその夢。 今の自分ではそれはどうやっても叶える事ができないから。 いつもNの事を想う度に、伝えようと思っていたのに、いざとなると緊張してしまうなんて…。 ゴクリと唾を飲んで、一度深呼吸。Nは不思議そうな表情を浮かべたまま、僕の話の続きを待っている。 「僕の夢は…N、アンタと一緒に色んな所を旅して廻る事。Nとずっと一緒にいることなんだ」 「………っ!?」 「だから、N。僕の夢を一緒に叶えてくれないかな?」 Nの顔が驚きに変わる。 自分でも言いながら思ったけど、これじゃあまるでプロポーズでもしているみたいだ。 だけど、これが僕の本心なんだから、今更撤回するわけにはいかない。 「……N」 「ボクでいいのかい?」 「うん。Nがいい。Nじゃなきゃ嫌なんだ」 「……ブラックって意外に我が儘なんだね」 「そうだよ。僕は我が儘だし欲張りなんだ」 「………いいよ」 返事はひどく小さいものだった。 リオルの様に、Nは僕のジャケットの裾をキュッと掴んで下を向く。 表情は帽子に隠れて見えないけど、髪の間から僅かに覗く耳が仄かに赤くなっていたから、きっと照れているのかもしれない。 「……本当に?」 「うん……ボクでいいなら」 「うん。Nがいい」 もう一度そう言って、僕は再びNを強く抱き締め直した。 [*前へ][次へ#] [戻る] |