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さあ、宴を始めよう。


Nと再会を果たした2日後、ギーマさんの発案でNの歓迎会が開催される事となった。

それを僕らが知ったのは当日の、しかも開催時間の2時間前だから、ただびっくりするしか出来なかったわけで。

主役は時間になるまで待機だから。と続けて言われ、今も僕専用の部屋に2人揃って待機している。

「それにしたって教えてくれてもいいのになぁ…」

余りにも手持ちぶさたなので、ゾロアのブラッシングしながら呟くと、同意するかのようにゾロアが鳴いた。

「やっぱり、ゾロアもそう思う?」
「キュゥンッ!」
「……でも、美味しいものがでるって言ってたから楽しみ!って言ってるよ」

僕の隣に座っていたNは小さく笑みを浮かべてゾロアの通訳をしてくれた。
美味しいものには目が無いのな。と苦笑いしながら、ブラッシングを続けると、ゾロアは気持ち良さそうに目を細める。

「なぁ、N」
「なぁに?ブラック」

気持ち良さそう。とゾロアを優しげな眼差しで見下ろすNの横顔を伺いながら、僕が問い掛けるとNは、こてん。と首を傾げた。
まるで、幼子の様な可愛らしい仕草に思わず胸が高鳴るけれど、それには触れずに、気になっていた事を口にする。

「……歓迎会、嫌じゃないのか?」

傷ついたポケモン達と共に幼少を過ごし、人間を憎むべき対象としていたN。
辛うじて、僕とは普通に話せるし、同じ時間や空間を共有出来るものの、やっぱり人間とは、どうしていいのか分からないのではないだろうか。
暫くの間、旅に出ていたとは言え、人はそう簡単に…しかもNの場合根底から変わらなくてはいけないわけで…。価値観というか考え方というのは簡単には変わらないのではないかと思うのだ。

「……正直なところ、本当は、まだ…怖いかな…」

たっぷりと間をおいて、少し俯いたNはぽつり、と呟くように言った。

「でもね、旅をしてみて思ったんだ。人間は悪い人ばかりじゃないだって」

ポケモンと協力して仕事をしたり、生活をしたり、ボクやブラックたちのように旅をしたり。野生のポケモンたちを助けようと動いてる人間も何度か見た。

そうした人間と関わっているポケモン達は皆とても楽しそうで、嬉しそうで、幸せそうだった。

だから、ボクも少しだけ勇気を出して、人と関わってみようかなって思ったんだ。

「それに、今はボクだけじゃない。何かあったらキミが…ブラックが居てくれる。そうでしょ?」

だから、大丈夫だよ。

顔を上げて、僕を見たNはそう言ってにっこりと微笑んだ。

「……え、あ、あぁ」

………反則じゃないか、その顔は。
不意討ちの微笑みに、思わず声がどもってしまった。

あんな事まで言われたのなら、もう心配する事はないのかもしれない。

「ほら、ゾロア終わったよ」

だってそうだろ。

こんな優しい彼の笑顔を。

「うん。ますます綺麗になったね。ゾロア」

守っていけるのは僕だけらしいし。

「2人共、準備出来ましたよ!」

ずっと傍にいなきゃいけないようだし。
まぁ、Nが嫌だと言っても居るつもりではいたけどね。

「はい。それじゃ行こうか、N」
「うん」

今の僕ならNの為になんだって出来てしまいそうだ。

そして僕達は皆の待つ庭園へと向かう。
決して離さないように、隣に立つ彼の手を握りながら。




END。

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