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月下のぬくもり

言う必要はないという皇帝の言葉はあったが、桂秋はすぐに陸仙強にいまのことを話した。
皇帝に聞かれたのであれば仕方がないということは、陸仙強も理解し、それに関しては何も言われなかった。

「これから後宮にいらっしゃるとおっしゃっておりました。お夕食もそちらで召し上がると」
「無論、後宮にも早速手配済みではあるが…。そもそも、あちらでも大勢の目が光っておるから、毒を盛る機会があるなど考えられんのだが。
しかし、その話を聞いたのであれば少しはご自重なさっていただきたいのだが、そうはなさらないのが曜和さまなのだ」
陸仙強は、あきらめかけたように首を振った。
だがすぐにその考えを振り払うように顔を挙げ、桂秋を見つめた。
「となると、周囲がこれまで以上に気をつけるほかない。おまえは出来るだけ、常におそばにお仕え申し上げるように」
桂秋はうなずいた。

桂秋はそのまま、侍女という形で皇帝のそばに仕えることになった。

陸仙強が気にかけていた通りだった
その晩、皇帝は夜更けに戻ってきた。
それを出迎えた桂秋は、皇帝が酒をだいぶ飲んできたことに気付いた。
皇帝は桂秋がいることに気付くと、おかしそうに笑った。
「ほう、出迎えまでしてくれるのか。ご苦労さま。陸仙強は意外と人使いが荒いな」
「曜和さま、何を召し上がりましたか」
「そんなことまで監視されるのか?やれやれだな」
そう言いながらも上機嫌のようだ。
「曜和さま、わたしが夕方申し上げたことを、ご承知いただけましたか」
「ああ、承知している。だが、俺の行く先々には人が大勢いて皆が塵一つでも見逃すまいと目を光らせている。飲み食いするものに関してはなおさらだ。そんなことをしようにもなかなか出来ないと思うんだが。それをしているというのなら、よほど人の目を盗むのがうまいやつだ。それは別のところで生かしたほうがいいな」
本当に、この状況を気にしていないのが改めてわかる。

「曜和さま」
桂秋が顔をしかめても、皇帝は笑うばかりだ。
「そんな顔をするな。俺はもう寝る。ああ、せっかくだから寝る前に脈でも取るか?」
「いまは結構でございます。そうでございますね、早くお休みになってくださいませ」
「はいはい。おまえも早く寝なさい。おやすみ」
寝室に入ってゆく皇帝を、桂秋は渋い顔で見送った。
だがそこで、ふと思いが至ったのだ。

せっかく後宮に行ったのに、一晩そこで過ごさないのだ、と。
夜更けになっても、結局は自室に帰ってくるのだ。


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あきゅろす。
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