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月下のぬくもり
十四
皇帝の自室のある建物では、陸仙強が心配そうに待っていたところだった。
その陸仙強を見て、皇帝は笑った。
「そんなに心配そうな顔をしなくとも」
「これが心配でなくして何が心配でございましょう。桂秋がいなかったらどうなっていたことか」
「ああ、確かにそうだな」
側近に支えられて寝室に入った皇帝は、そこで疲れきったように自ら身を横たえてしまった。
陸仙強が脈を取る。
「歩かれたからでしょうか、少し…」
だがそれに対し皇帝は、笑いながら言った。
「おまえが取るから乱れるんだろう。手はやはり女の柔らかい手に限るな」
「曜和さま!」
「陸先生、ですが先程はこんなことをおっしゃる気力もなくて…」
なるほど、と陸仙強は渋い顔をする。
「外が少しお寒かったせいもあると思います。それでもう、ひとまず今夜はお休みいただいたほうが。とてもお苦しそうでしたから、だいぶ体力を消耗なさったと思うのです」
陸仙強は桂秋の言葉にうなずいた。
「よく眠れるお薬をご用意いたしましょう」
「いらない。大丈夫」
そう言うと皇帝は、ゆっくり体を起こすと、さっさと服を脱ぎ始めてしまった。
「もう寝る。おまえも休め。ああ、桂秋はあとでちょっと来い」

部屋を辞した陸仙強は、再び心配そうに顔をしかめた。
「今のご様子は、まあ悪くはなかったが…」
「ええ、一度落ち着かれたあとは、すっかりいつものご様子なのですが」

陸仙強の部屋に向かった桂秋は、そこで先程の様子を改めて事細かに話した。
それを聞いた陸仙強は、顔をしかめた。
「薬湯を召し上がってすぐ?」
「はい、ほとんど間をおかずに」
「処方が合わなかったのだろうか…」
「ですが、今の処方でこれまでお飲みいただいてきて、良くなることもございませんでしたが悪くなることもございませんでしたのに」
「そうだな…。何の変化もなかったのに、ここへきてなぜそんなに大きな発作が」
「そうですね。ああ、ということは、あの処方に対しそういう症状を呈するところから、何かわかるかもしれません」
「…いや待て」
陸仙強が、ふと何かに気付いたようだった。

「いま、曜和さまは後宮でお食事を召し上がったのだろう?その直後に、薬をお飲みになった」
「はい。あのとき、お食事は先程済ませた、と聞きました」
「これまでも、薬は必ず食事の後にお飲みいただいていた。だがそういうことは一度もなかった。
今までは、食事はこの建物で用意したものだった。先程、薬を飲んでいただくようになってから初めて、後宮でお食事をとったことになる。まさか、直前にとった食事に何か混ぜられていて、それに反応したのでは…」
桂秋は目を丸くした。

「そんな…」
「先程のお食事はどこでお取りになった。つまり、どなたのところへいらしていた」
「宋紅芭さまとおっしゃる方のところだそうですが…」
「もう一度調べさせよう」
陸仙強は、座っていた椅子から立ち上がった。
「でも先生、後宮もすべてお調べになったはずでは」
「確かに、後宮は特に念入りに調べさせた。そうしたところ誰も疑わしい者はいなかった。そもそも後宮入りするような女性の身元は当初からきちんと調べているはずだし、その周囲にも怪しいところのある者はいないということだった。だが、こうなってしまったのだ」
「……」
一体どういうことだろうか。
先程、去り際に見せた紅芭の意味ありげな笑みが思い出された。
だが、それがどういうことなのかはまったくわからない。
まったくわからない以上、意味ありげに見えたのは単に自分の気のせいだったのかもしれない。

陸仙強が人を呼ぼうと扉を開けると、ちょうどそこには皇帝の側近が立っていて、声をかけようとしていたところだった。
「ああ先生。桂秋さまはこちらにおいででしょうか。陛下がお呼びでございます」


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あきゅろす。
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