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金の過去 銀の未来

池をぐるりと一周したところで、捷隆は不意に足を止めた。
「捷隆さま?」
端正な彼の横顔には、改めて見ると疲労の色が浮かんでいる。
「捷隆さま…どうぞお体を大切になさってくださいませ」
捷隆は、そう言う雪華を見やった。
「だいぶお疲れのご様子ですから」
捷隆はほほ笑んだ。
「大丈夫。…もう、街へ出なくても気が晴れるし」
「?」
「おまえがここに来てくれたから。…おまえと毎日会えるだけで大丈夫」
雪華の頬が、さっと赤く染まる。
それが自分でわかった雪華は、慌ててうつむいた。

喜びたい。
でも、喜んではだめだ。

茜姫に申し訳が立たない。

捷隆は、そんな雪華の気持ちをすべて見通しているようだった。
もうそれ以上は何も言わず、池を背に戻り始めた。
だが、数歩歩いたところで再び立ち止まったのだ。
「やはり、せめてこれだけでも」
捷隆はそういうと、懐から何かを取り出した。
それは銀の腕輪だった。
彼は無言で雪華の手をとると、その手首に腕輪をすっとはめてやった。
「何も言わずに受け取ってほしい」
「……」
「俺はいつか、必ずおまえを自分のものにする。いつか必ず」

いつか。
そう、今日明日でなく、いつかそのうち。
明日、妃を迎えようとしている人が言う言葉ではなかった。
そして同時にそれは、自分は、明日やってくる妃には興味がないことを表していた。

興味を持ってもらえない妃。
宮中において、それは死も同然だ。
雪華には何も言えなかった。
そしてその雪華の気持ちも、捷隆は十分わかっているようだった。
「おまえが仕えている限り、彼女を不幸にはしない」
雪華はうなずいた。
「わたしは、捷隆さまとお会いできるだけで十分です。お顔を拝見できるだけで。お声を聞くことができるだけで」
「……」
捷隆は、何も言わずに雪華を抱き寄せた。
暖かい腕の中。
広い胸に顔をうずめると、その鼓動がかすかに耳に届く。
柔らかな絹地。
背中に回された手が、何度も雪華の背をなでる。

もうこれで十分、と雪華は思った。
この記憶だけで、一生生きていけるだろう。
きっと捷隆だって、茜姫を実際に見て接すれば、その素晴らしさがわかるだろう。
いつかなんて、そんな時はきっとずっと来ないだろう。


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