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金の過去 銀の未来

いよいよ輿入れの前日となった。
雪華は他の侍女たちと、一足早く宮中に向かった。
宮中には、皇帝が政治を取る正殿を中心に、多数の建物が並んでいる。
茜姫の住まいとなる建物は、もう準備は万端整っており、あとは主を迎えるだけとなっていた。
たくさんの輿入れ道具もあるべき場所に収まっている。
それでも一応、と雪華が茜姫の部屋を見回っていると、捷隆がやってきたのだ。
茜姫付きの侍女は、雪華のように実家からつれてくる侍女の他に、以前から宮中にいた侍女たちもいる。
その後者の侍女たちが、捷隆を見て驚いたように叫んだのだ。
「まあ捷隆さま!どうして今日こちらに?」
「どうして?って」
捷隆はおかしそうに笑う。
「やあ雪華」
「……」
声をかけられた雪華は、思わずうれしくてほほ笑んでしまった。
だが、すぐに慌ててうつむいた。
馴れ馴れしくしてはならないのだ。
侍女たちが不思議そうな目でこちらを見つめている。
それには捷隆も気付いていたらしい。
すぐに、雪華から目をそらした。
「いよいよ明日だ。準備が整っているか、自分の目で見ておきたくてな」
そして、それだけ言うとすっと部屋から出て行こうとした。
ただ、出て行こうとしながら雪華のほうに目配せをしたのだ。
雪華は一瞬の間をおいて、自分も部屋の外に出た。
捷隆が庭へ向かうのが見えた。
「捷隆さま」
木立の中を歩く捷隆に声をかけると、捷隆はすぐに足を止め振り返った。
そしてほほ笑んで雪華を待ち受けた。
「ここにいて大丈夫なのか?」
「ええ、今はもうあまりすることはないようで」
捷隆はうなずいた。
そして、裏庭のほうに向かったのだ。
「捷隆さま、どちらへ…?」
「裏手に池があるんだ」

茜姫の住まいは宮中でも奥のほうにあったが、さらに裏手に向かうとそこにはきれいな池があった。
どこまでも青く澄んだ水。
水底の小石が見える。
蓮の花が静かに浮かんでいる。
「まあ」
あまりの透明さに雪華が感嘆の声を上げると、捷隆はほほ笑んだ。
池の周囲には背の高い木々が植わっており、人の気配はない。
小鳥がさえずりながら木の間を縫っていく。
池の周囲を並んで歩きながら、雪華は一人、幸せをかみ締めていた。
もう十分。
もうこれで十分だ。

自分は、これ以上は望まない。
いや、望んではいけない。
時々言葉を交わせれば、もうそれで十分だ。


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