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金の過去 銀の未来

あせればあせるほど見つからない。
人にぶつかるのも気にせずに、雪華は市場を闇雲に歩き続けた。
「おっと」
誰かにぶつかったようだが、雪華は気にしなかった。
だが相手は気にしたらしい。
「どうかしたのか、血相を変えて」
邪魔をしないで、と思いながら、雪華はそう言った声の主を見やった。
それは、立派な着物を身に着けた、二十歳くらいの青年だった。
「どうしたんだ?青い顔をして」
「あ…」
青年は見るからに、どこぞの大家の令息だった。
身に着けた衣装にも品があれば、その顔立ちにも品がある。
何より、これまで雪華がぶつかった相手は雪華の様子など気にも留めなかったのに、この青年だけは雪華のせっぱ詰まった様子に気付いてくれたのだ。
もうどうにもならなくなっていた雪華は、青年に訴えていた。
「連れのお嬢さまとはぐれてしまって…」
「令嬢と?それは大変だ。一体どこではぐれたんだ」
「あちらです。もうずいぶん探したんですが…」
そう言ううちに、雪華の目には涙がにじみそうになる。
もしも見つからなかったらどうしよう。
よもや、人さらいなんかにつかまったら…!
そんな雪華の背を、青年はぽんとたたいた。そして、早速歩き出した。
「大丈夫、一緒に探そう。必ず見つかる。令嬢の年格好は?」
「年齢も背格好もわたしと同じくらいです。若草色の服をお召しで、髪には翡翠の飾りを…」
「わかった」

雪華はとにかく必死で茜姫を探した。
見つからないかも、という考えが頭をよぎるたび、目に涙が浮かぶ。
そのたびに、青年は雪華の背をぽんとたたき、大丈夫と言ってくれる。
「必ず見つかるさ」
自分も用があるだろうに、わざわざ一緒に探してくれる青年の優しさ。
弱気になるたびに、笑って何度も励ましてくれる。
ほがらかな笑顔は、まるで人を包み込むようにあたたかい。
なんて大らかな人物なのだろう。

そういうことを考える余裕が出来たのは、茜姫を見つけた後だった。
茜姫は、髪飾りを売っている店の前でしげしげと品物を見つめていたのだ。
「ああ、あの娘では?」
「!」
雪華は茜姫に向かって駆け寄った。
「茜姫さま!」
「あら雪華」
茜姫はどうやら、自分がはぐれたとは夢にも思っていないらしい。
真顔で走りよってきた雪華に、のんきに話しかけた。
「ねえ見てちょうだい、この銀細工。すばらしいわ」
「茜姫さま…」
雪華はもう、笑うしかなかった。
「ちょっとこちらでお待ちくださいね。きっとでございますよ。すぐに戻りますから」
「ええ、まだ見てるから平気よ」
雪華は慌てて振り返ると、先程の青年のところに舞い戻った。
青年はまだ同じところにいた。
だがいま彼のそばには、先程までいなかった別の人間がいるのだ。
青年と同じくらいの年頃の男性だ。
青年はその男性の話を聞いていたようだったが、その顔はずいぶんとけわしくなっている。
そして何か一つうなずくと、再び雪華のほうを見やった。
そして、けわしい表情を一転させ、ほほ笑んだ。
「よかった、あの娘だったか」
「はい、おかげさまで。どうもありがとうございました、本当に助かりました」
雪華が深々と頭を下げると、青年は笑って首を振った。
「じゃあ、俺たちはここで。気をつけて帰りなさい」
「はい」
話が終わったと見ると、男性が、青年に声をかけた。
「急ぎましょう、捷隆さま」
「え?」

捷隆?
とは、まさか、あの?
太子本人では?

茜姫の嫁ぐ相手。

雪華の表情から、青年は雪華が自分のことを知っていると察したらしい。
だが、それでも彼は何も言わなかった。
ただ笑って、片手を軽く上げてじゃあ、と言うと、男性を引き連れて人ごみの中に消えていった。


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あきゅろす。
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