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金の過去 銀の未来
二十八
捷隆の命により、老婆がすぐに宮中に呼び寄せられた。
皇帝の部屋の窓から見える庭先で占うことになり、占ってもらいたい侍女たちが列をなした。
庭に出られる窓を大きく開け放つと、寝台に起き上がった皇帝からも庭の様子が見渡せる。
用意された小さな椅子に腰を下ろした老婆を見て、雪華は、あのときの老婆と同一人物のように思えた。
やはり捷隆の命を受けた宦官が場を仕切る。
今か今かとそわそわしている侍女たちを、宦官たちがなだめる。
老婆は気を見て占うそうだった。
侍女の一喜一憂する様子を、初めは浮かない顔で眺めていた皇帝だったが、すぐに興味深そうに見つめ始めた。
その様子に雪華も安心し、捷隆も同じ気持ちのようだった。
侍女たちを占い終えるころには、皇帝はひとまず気分も落ち着いたようだった。
「どうでしたか父上。面白かったですね」
「興味深いものだな」
雪華もほほ笑んでうなずいた。
宦官が捷隆のところに来て、もう老婆を帰してよいかと尋ねる。
「ああ、ご苦労だったと伝えてくれ。ほうびも忘れずにな」
「かしこまりましてございます」
宦官が老婆のもとに行き、捷隆の言葉を伝える。
老婆はうなずき、そして、部屋に向かって深く頭を下げた。
だが、そのときふと雪華に目を留めたのだ。
雪華もそれに気付き、思わず窓辺に近づいていた。
「おばあさん、もしかして、あのときの?」
老婆は雪華を見つめて、初めはほほ笑んでうなずいた。
だがすぐに顔をしかめたのだ。
「……皇后になると言ったはずだが……」
「ええ、おばあさんの見立てのとおりでした」
「?」
老婆は首をひねる。
それから、一人納得したようにうなずいた。
「ああ、そういうことか」
「え?」
そして、老婆は雪華の奥にいた捷隆を見やって言ったのだ。
「おまえは、そちらの皇子と結ばれよう。そちらの方はいずれ即位なさるから、そのときに、おまえも皇后になるはず。今はまだだね」
「あ、あの…おばあさん」
雪華は老婆のほうに近づいた。
「実は…」
だがその雪華の言葉を、老婆はさえぎった。
「私が昔見たのは、孤児であるおまえだ。今はどうやら親がわかったようだが、孤児であるおまえは、間違いなくあちらの皇子と結ばれるだろう」
雪華が首をひねると、そこへ捷隆がやってきたのだ。
「雪華!」
それは、とても晴れやかな声だった。
あまりの明るさに、雪華は驚いて振り返った。
するとその声と同様に捷隆の顔も、この場にいる誰よりも輝いていた。
まるで何かが吹っ切れたような表情をしている。
どうかしたのかと思う雪華に、捷隆は言ったのだ。
「そう、確かに、父上の皇后は江順育の娘だ。だが孤児としてのおまえはまだ誰のものでもないんだ。そうだろう?」
「え……?」
「父上」
捷隆は父帝を振り返った。
「私はこの孤児を妃に迎えます。幼いころ何者かにさらわれ、人買いに酒楼に売られ、謝徳秀に救われてその屋敷で働いていたこの孤児を。父上が皇后になさったのは、江順育の娘でしたね」
皇帝も老宦官も涙をこぼした。

捷隆が迎える妃は、記録上、親の名も知らない孤児とされた。



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