[携帯モード] [URL送信]

金の過去 銀の未来
二十七
もしもあのとき、老宦官が自分に気付かなければ今頃は、どうなっていたか。
自分が桃葵に似ていると気付かれなければ。
茜姫は何事もなく捷隆のもとに輿入れし、自分は茜姫に仕えていただろうか。
そうしていつか、捷隆と結ばれていただろうか。
毎日毎日、捷隆と笑って過ごしていられたのだろうか。

「そんなに泣くな」
涙ぐんでいる老宦官に、捷隆は笑って声をかけた。
「あまり泣くと体に毒だから。もう気にするな。父上も」
皇帝は、なおも青い顔をしていた。
「どうかお気になさらず」
「気にしないわけがなかろう。雪華だって…」
皇帝は雪華を見やった。
「どうしてそういう目で捷隆を見るのか。桃葵がわしを見ていたのと、同じような目で。それにその銀の腕輪。大切にしているそうだな。なぜそんなに大切にするのだ。…桃葵が大切にしていたのと同じように」
雪華は手首の腕輪を押さえた。
「おまえは桃葵にそっくりだ。わしのことをあんなに慕ってくれた桃葵に。どうして、桃葵がわしを見ていたのと同じような目で、捷隆を見るのだ」
皇帝は繰り返した。
「桃葵も、銀の腕輪を大切にしていたんだ。…わしがやった銀の腕輪を」
雪華も笑った。
「陛下。わたしは大丈夫です」
そう言うしかなかった。
何か言ってどうにかなるのだったらともかく、どうにもならないのだった。
皇帝は、もう起きてはいられないようだった。
捷隆に体を支えられて、寝台に横たわってしまった。
「父上、やはり侍医を呼びましょう」
「いや、医者に診てもらってもどうにもなるものではない」
老宦官も涙が止まらないようだ。
二人の気分を晴らそうと、捷隆はにこやかに話しかけた。
「父上、これでよかったんです。父上はお聞き及びですか?雪華が昔、占術師に見てもらったことを。そこで雪華は、皇后になると言われたそうですよ」
「占術師…?」
捷隆の意図を察した雪華も、皇帝のつぶやきに笑顔でうなずいた。
これまでのことやこれからのことを考えるよりもまず、とにかく今この場を何とかしなければならなかった。
「ええ、当時よく当たると大変評判だったそうです。それに、わたしのことも見事に当てたというわけですし」
「江順育も昔、行方不明になった娘のことを占術師に見てもらったことがあるそうです。そうしたらそこでも、おまえの娘は皇后になると言われたとか。意外と当たるものですね」
雪華もうなずく。
「本当に。不思議なものでございますね」
「いまもまた都で、ある老婆の占術がよく当たると噂になっているそうです。占ってほしい者たちが列をなしているとか。ここへ呼び寄せましょうか、きっと面白いかと」
「わしはいまさら占術なんぞ…」
「では陛下、侍女たちを占わせてはいかがでございましょう。きっとみな喜ぶと思いますわ」
「ああ、それがいい。父上、そうしましょう」
老宦官も涙を拭き拭きうなずいた。
「さようでございますね、彼女たちはそういうことには目がないですから。陛下、せっかくですからそうなさっては。きっとご気分も晴れましょう」


[*前へ][次へ#]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!