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金の過去 銀の未来
二十五
皇帝の部屋を出た雪華は、宦官に連れられて捷隆がいるであろう正殿のほうに向かった。
すると捷隆はいま、大臣と会っていると言う。
だがすぐに黎明がやってきてびっくりしたように雪華を出迎えた。
「どうしてここに?」
「それが…」
黎明は宦官に、あとはこちらで見るからと言い、雪華を連れてひとまず近くの部屋に入った。
部屋に入り、雪華が兄に来意を説明すると、黎明は首をかしげた。
「それでわざわざおまえが?」
「ええ…」
「まあ、そういうことだったら、ここで待っていなさい。話はもうじき終わるから」
侍女がお茶を運んでくる。
それに口をつけて待っていると、すぐに捷隆もやってきた。
彼もやはり驚いたような顔をしていた。
「いま黎明から聞いたが、どうしてわざわざおまえを寄越すのだろう」
雪華は首をかしげたあと、小さな声で口を開いた。
「ただ、その果物の件とは別に、陛下はその…わたしから捷隆さまにお話ししてほしいと…。その…」
雪華が言いよどむと、すぐに捷隆は首を振った。
「そのことは黎明から聞いた。何も言わなくていい」
雪華がうなだれてしまうと、そこで捷隆は笑った。
「来意はよくわかった。送っていくから戻りなさい」
「え…?いえ、大丈夫…」
「いやそういうことなら、父上に礼を申さねば」
それもそうだと、雪華は送ってもらうことにした。

石畳の上を歩きながら、捷隆は先程の続きのように街の話をしてくれた。
聞いていると、自分も出かけたくなる。
街に買い物に出かけていたのはついこの間のことなのに、まるで昔々のことのようだ。
「さっき兄にも話したのですが、一度、陛下にお願いして、家に帰ってみたいです。それでその行き帰りにでも街の様子を見てみたいです。ついこの間までは自由に街を歩けましたのに、随分と遠ざかってしまったような気がします」
「そうだな、一度願い出るといい。もうそろそろ父上だって、おまえが一日二日いなくとも大丈夫だろう。謝徳秀の屋敷にも行くといい。皆、びっくりするだろうがな」
「そうですね」
「何しろ、あまりに急なことだったからな。しかし、おまえを占ったその占術師の言うとおりではあったわけだが」
雪華はうなずいた。
「長い間、気にはなっていましたが全然信じてはおりませんでした。ですがあの当時、よく当たると言われていましたから」
「実はいま、街で一人の老婆が話題になっているらしい。よく当たる占術師がいるとな。毎日占ってほしい者が列を成しているそうだ」
「そうですか…」
今そう言われても、今の雪華には占い自体にはもうまったく興味はなかった。
「わたしを占ってくださったおばあさんと同じでしょうか。あれからぱったりと噂を聞かなくなりまして、どうやら別の街に行ってしまったようでしたが」
「もしかしたらまた戻ってきたのかもしれないな。そうそれで」
捷隆の話も別の話題に移り、彼ももうその話題には触れなかった。


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あきゅろす。
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