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金の過去 銀の未来
二十三
皇帝は、雪華の声を聞きたいがために呼んだようだった。
枕元には書物があり、それを読むようにと言う。
雪華はほほ笑んでうなずき、書物を手に取ると、広げて読み始めようとした。
するとそこで、老宦官が突然口を開いたのだ。
少なくとも雪華にとって、それは突然だった。
「そうでした陛下、先程のものを少し捷隆さまにお分けになってはいかがでございましょう」
「ん?ああ、そうだな。じゃあ後で人をやって持っていかせよう」
先程見舞いにやってきた人物が、珍しい果物を献上したそうだった。
かなりの量を持参したそうで、とても食べ切れそうにないという。
「わしと雪華ではそんなに食べられないだろう、捷隆にも味を見させよう」
「果物は足がはようございます。早くお届けになったほうが。ぜひ今すぐ…ああ、雪華さまにお願いすればよろしゅうございましょう」
「雪華に?今すぐにか?」
「ええ、せっかくあんなに珍しいものが献上されたのですから」
老宦官は、そう決めるとさっさと人を呼んでしまった。
「どうかしたのか?そんなに急いで」
皇帝も驚くほどだ。
雪華もそれにはうなずいた。
「今すぐでなくても。そんなに足が速いものなのですか?」
「さようでございます。あの果物は、南方のごく一部でしかとれないものでございますから、都に運ばれてくるまでに相当な時間が掛かっているはずでございます。早く召し上がっていただかないと熟れすぎて味が落ちてしまうやもしれません」
確かに、そう言われればそうかもしれない。
せっかくのものが、腐ってしまっては元も子もないだろう。
老宦官は、やってきた侍女に先程の果物を少し捷隆に分けるよう言うと、雪華にも声をかけた。
「雪華さま、ではお早く。果物はあとからすぐに持参いたしますから、雪華さまは先にいらして捷隆さまにご説明なさってくださいませ」
「え?」
老宦官の性急な様子に、皇帝はとうとう笑い出した。
「何をそんなに急ぐのか。わざわざ雪華に託さなくともよいだろうに。だがまあ、行ってきなさい。ついでに先程の話もしてきなさい」
「え、ええ…」
皇帝は、自分が既にあれから捷隆と会ったことは知らないのだ。
しかし、皇帝がそう言うならと、雪華は書物を置いて立ち上がった。

雪華が部屋を出て行くと、老宦官はため息をついた。
「一体どうしたんだ?」
皇帝は笑っている。
「雪華を急に追い払って。急遽、わしだけに話したいことでも?」
「陛下…」
老宦官は雪華を見送った途端、暗い表情を見せた。
そして皇帝の言葉にうなずいた。
「わたくしはもしかして、大変な過ちを犯してしまったのでは…」
「過ち?おまえがか?」
老宦官は、悲しそうに顔をゆがませた。
「取り返しのつかないことを…。ああ、だから捷隆さまはあんなにかたくなに反対を。そのときに気付いていれば、わたくしもお止め申し上げましたのに」
「何を言っておるのだ」
「捷隆さまと雪華さまのことでございます」
「捷隆と雪華?」


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