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金の過去 銀の未来
二十二
「捷隆さま」
彼は、すまなそうに声をかけた。
「至急のご用件が。これはどうしても捷隆さまでないと」
捷隆は、黎明に向かって笑ってうなずいた。
気にするな、と。
「じゃあ雪華、また」
黎明は雪華にもすまなそうな顔を向ける。
雪華もやはり、兄に対して笑いかけた。
「お兄さま、わたしは大丈夫です」
捷隆は、ずっと手にしたままだった腕輪を雪華に返した。
そして、黎明と連れ立って戻っていった。
ずっと捷隆の手の中にあった腕輪には、捷隆のぬくもりが残っている。
雪華はそれを大事に大事に握り締めた。
捷隆のぬくもりを感じながら。
するとそのとき、遠くに老宦官がいるのが見えたのだ。
皇帝が呼んでいるのだろう、彼は自分を呼びに来たのだ。
だが老宦官は、植え込みの向こうにじっとたたずんでいるのだ。
ただじっとこちらを見ているだけなのだ。
まぶしそうに目を細めて。
自分を呼びに来たのではないだろうか?
いつからあそこにああして立ち尽くしていたのだろう?
雪華は腕輪をはめると、そちらに向かった。
雪華が歩き出したのを見て、老宦官は我に返ったように体を震わせると、こちらもようやく雪華のほうにやってきた。
「どうかなさいましたか?陛下がお呼びなのでは…?」
「え、ええ、さようでございます。つい考え事をしてしまいまして、失礼いたしました。…その腕輪は…?」
「え?」
もしかしたら老宦官は、この腕輪を捷隆から返してもらうところを見ていたのかもしれなかった。
それなので雪華は、変に隠すよりも本当のことを話すことにした。
「ええ、これは以前、捷隆さまからいただいたんです」
「さようでございますか」
老宦官は、なるほどと何のためらいも見せずうなずいた。
だがそれから、小さな声で話し始めたのだ。
「……陛下も昔、桃葵さまに銀の腕輪を差し上げたことがおいででした」
「陛下が?」
「桃葵さまも、それをとても大切になさっておいででした。肌身離さず御身につけ、毎日毎日きれいに磨かれて。大切になさっている桃葵さまをご覧になって、陛下もそれはそれはうれしそうになさっておいででございました…」
老宦官は言った。
「捷隆さまは、お若いころの陛下によく似ていらっしゃいます。いま、ご一緒のお二方を拝見して、わたくしは、まるで陛下と桃葵さまがいらっしゃるように思ったのです。仲睦まじかったお二方が目の前にいらっしゃるようで…。白昼に夢を見ているのかと思いました…」
彼はそう言うと、疲れ切ったように目を伏せた。


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あきゅろす。
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