[携帯モード] [URL送信]

金の過去 銀の未来
二十一
そんな兄を見送った後、雪華はそのまま庭へと足を向けた。
太陽の光が庭一面に降り注いでいる。
外の日差しはいまの雪華には明るすぎて耐え難いような気がして、すぐに木陰に入った。
そして、木の下にある椅子に腰を下ろすと、銀の腕輪を外してそれをしっかり両手で握り締めた。
これさえあれば生きていける。
大丈夫。
そう自分に言い聞かせ、落ち着こうとした。
それでも油断すると涙が浮かびそうになる。
だがそのとき、こちらに近づいてくる足音が聞こえたのだ。
駆け寄ってくる足音の主は、捷隆だった。
「捷隆さま」
雪華は反射的に立ち上がった。
そして、駆け寄る捷隆に合わせ、日の光の中に駆け出すと小走りに近づいた。
雪華を見て、捷隆は笑う。
その笑顔に、雪華の顔にも自分でも知らないうちに笑みが浮かんだ。
捷隆は、黎明の話を聞いたからこそ駆けつけたのだろうが、そのことに関しては何も言わなかった。
彼とて、何も言えないのだった。
軽々しいことを言っても余計に悲しくなるとわかっているのだった。
「何をしていたんだ?」
彼はただそう笑顔で尋ねると、雪華の手の中の腕輪を見やった。
そして、そう聞きつつ答えは求めず、雪華の手から腕輪を取ると自分の袖で磨き始めた。
「まあ捷隆さま、お召し物が汚れてしまいます」
「こんなに綺麗なのに、汚れるものか」
捷隆は腕輪を示して笑った。
雪華が毎日身につけ、毎日暇さえあれば磨いている腕輪は、今日も一点の曇りもなく輝いている。
腕輪が動くと、日の光を反射してまぶしくきらめく。
まぶしさに雪華が目を細めると、捷隆は木陰に向かってくれる。
そして、さっきまで雪華が座っていた椅子に自分が腰を下ろした。
「捷隆さま、兄から聞きました。街へお出になっていらっしゃるんですね」
すると捷隆は、一瞬だけ寂しそうにしたあと、肩をすくめて笑った。
「やっぱりお忍びは面白くてね」
「……何か変わったことはございました?」
捷隆は、見てきたことを面白く話してくれた。
道端に咲いていた花の話から、往来で喧嘩をしていた男たちのことまで。
その話は楽しくて、雪華は笑いながら聞いていた。
捷隆と話しているといつもそうだ。
楽しくて、時間がたつのを忘れてしまう。
気がつくと時が過ぎている。
だが、今日はそうではなかった。
忘れてしまうより前に、黎明が再びやって来たのだ。


[*前へ][次へ#]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!