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金の過去 銀の未来
二十
将来、必ず捷隆は誰かを妃に迎えるだろう。
しかもそう遠くはない将来。
自分はそれをきっと、今のように笑って見ていることしか許されない。
捷隆が、どこかの令嬢と仲睦まじく話している様子を、自分は見つめていることしか許されない。
その顔を長い間見られなくても、寂しがることは許されない。
なぜ自分は、何もかも許されないのか。
皇后になるという運命は、こういうことなのか。
この先ずっと、寂しさと悲しさに耐えて生きていかねばならないのか。

「雪華さま、どうかなさいましたか?」
老宦官が尋ねた。
「お疲れのご様子ですが」
「いいえ、何でもございません。大丈夫です」
雪華はほほ笑んだ。
そのときちょうど、皇帝を見舞いに人がやってきて、雪華は皇帝の前を辞した。

雪華は部屋に戻ると、椅子に座り込み両手で顔を覆った。
本当に、少し疲れたかもしれない。
我慢するのに疲れてしまったかもしれない。
でも、我慢しなくてはならないのだ。
やり過ごさないとならないのだ。
雪華は身じろぎ一つせずに椅子に座っていた。
するとそこへ江黎明がやってきたのだ。
彼は、雪華を見て心配そうに顔をしかめた。
「どうかしたのか?だいぶ疲れているようだが」
「いいえ、何でもないんです」
雪華はほほ笑んだ。
「何でもないという様子ではないが…。陛下と何かあったのか」
「いいえ、何も。それよりお兄さま、それは?」
黎明の手には小さな包みがあった。
なかなかここへは来られない母親の代わりに、黎明が預かってきた荷物だった。
「……本当は、一度くらい家に帰れればと思うのだが」
雪華はほほ笑んだ。
「そうですね、もう少したったら、陛下にお願いしてみます。今度、離宮へ連れて行ってくださるとおっしゃっていました。その前にでも。…ご譲位もお考えになっていらっしゃるようですし…」
「ご譲位の件は、前々から耳にしてはいるが…。もしや譲位なさって、ご自分は離宮でお過ごしになるとおっしゃっているのでは。おまえを連れて」
雪華がうなずくと、黎明は首を振った。
「捷隆さまが寂しがるだろう」
「そのことで、陛下もおっしゃっていました。早く、どなたかをおそばにお迎えになってご自分を安心させてほしいと。おそばにどなたかがいらっしゃれば、捷隆さまもお寂しくはないだろうと。譲位なさるのに、そのことだけがお気に掛かっていらっしゃるようでした。わたしから、捷隆さまにこのことをお伝えしてほしいとおっしゃっていらしたんです。ですからお兄さまからお伝えください」
「おまえにそんなことを。だからそんな顔をしているのか」
雪華はほほ笑んだままうつむいた。
「わたしはいいんです」
「たとえおまえはよいとしても、捷隆さまはよくはないだろう」
そう言われても、雪華にはほほ笑むことしかできない。
それは黎明もよくわかっているようだった。
「捷隆さまも、お手がすき次第すぐにこちらにいらっしゃるから」
雪華は首を振った。
「お忙しいのでしたら、無理にいらっしゃらなくても…」
「ご自身がお越しになりたいんだ」
黎明はそう言い切った。
そして話を続けた。
「捷隆さまは、以前より頻繁に街へお忍びで出掛けられるようになってね」
「え?」
「以前はゆったりと読書をしたり考え事をしていらした時間があったのに、そういう時間もめっきりなくなってしまった。じっとしていられないようだ。そうするしか気晴らしが出来ないのだろう」
もう街には行かなくても気が晴れると言っていたのが、はるか昔のことに思われた。
黎明は雪華の肩をぽんとたたくと、すぐに呼んでくるからと言い残し、部屋を出て行った。


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