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金の過去 銀の未来
十八
翌朝、身支度を整えた雪華は老宦官にせかされるように皇帝のもとに向かった。
雪華を見た皇帝は、うれしそうに笑う。
その笑顔は、当然といえば当然だが捷隆のものに似ていると雪華は気付いた。

その日はずっと、皇帝は自分を離さなかった。
老宦官が、母親がやってきたと伝えてくれたのだが、皇帝は渋るありさまだった。
そこへ捷隆がやってきたのだ。
明るい日差しのような陽気を身にまといながら。
「父上、お体の具合はいかがでございますか?」
昨日、父帝に食って掛かっていた捷隆とは別人だ。
とはいえ、これが本来の姿に違いなかった
枕元の椅子に腰を下ろしていた雪華が立ち上がり、彼に席を譲るとほがらかな笑顔が返ってくる。
「父上、今聞いたのですが、雪華の母親が会いにきているそうではないですか。それなのに雪華を離さないとか。長い間生き別れになっていたんですから、せめて少しだけでも会わせてやってください。どこへ行くわけでもないんですから」
皇帝は、その言葉には従った。
捷隆がそう言うのなら、と。
皇帝も、普段は捷隆の言葉にはよく耳を傾けているそうだった。
だから、昨日のような姿が珍しいようだった。

江順育の妻は、雪華を見て涙を流した。
そうして、こうも言ったのだ。
「本当にお姉様そっくりだわ」
やはり自分は似ているのだ。

急にこんなことになってしまった自分を心配して、謝徳秀や江順育は毎日顔を出してくれた。
初めのうちは皇帝は片時も自分を離したがらなかったが、日がたつに連れて多少は落ち着いたようで、常にそばにいる必要はなくなった。
身の回りの世話は老宦官らがするし、侍医も毎日様子を見に来るし、雪華の役目は話し相手だ。
用があると、老宦官が雪華を呼びに来る。
もっとも、用というのは顔が見たいだけのことがほとんどだ。
声を聞きたいことがほとんどだ。
声を聞きたいから、その書物を声に出して読んでくれと言われる。
うなずいて読み始めると、皇帝はいつもうれしそうに笑う。
だが、皇帝はもちろん自分など見てはいなかった。
自分の声など聞いてはいなかった。
皇帝は自分を通じ、亡き桃葵を感じていたいのだった。
皇帝が桃葵とどれほど仲睦まじかったか、老宦官も話してくれる。
「毎日楽しそうにお話しなさっておいででございました。どなたの目から拝見しましてもお二方は仲睦まじく、拝見しているこちらまでも幸せな気持ちになったものでございます」
そんな相手を、あっけなく亡くしてしまった皇帝の嘆きは想像して余りあった。

捷隆は、毎日必ず父帝のところにやってきた。
政務の報告に来るのだ。
そのとき、雪華が皇帝と一緒にいれば顔を合わせるが、一緒にいないときもある。
だがそれとは別に、捷隆は毎日必ず雪華のもとに顔を出してくれたのだ。
毎日やってきては他愛のない話をする。
庭に出て少しだけ散歩をする。
それで雪華は十分だった。
なぜ捷隆が雪華のもとに、わざわざ毎日やってくるのかと初めは余計な心配をしていた者もいたようだったが、捷隆は周りが疑念を抱くようなそぶりは決して見せなかったので、すぐにそんなことを考える者はいなくなった。
そのため周囲は、謝徳秀や江順育が顔を出すのと同じようなものにとらえているようだった。
兄である黎明もよく雪華の元へやってきた。
一人でやってくることもあれば、父親である江順育と一緒にやってきて、一緒に話をすることもあった。
捷隆の側近である彼は、当然捷隆と一緒にやってくることもあった。
だがそんなとき、彼はあくまで捷隆を送ってきたという立場で、捷隆だけを残して帰っていった。


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