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金の過去 銀の未来
十四
皇帝の部屋に向かうと、そこには捷隆がいて、押し問答をしていたところだった。
「父上、何度申し上げたらおわかりいただけるのです。雪華はまだ十七です、それを父上の皇后になんて。雪華の未来はどうなるんです。もう少しよくお考えになってくださいませ。おそば付きの侍女でよろしいではございませんか」
「いくつだろうが関係ない。わしはいま、そうしたいんだ。いつかいつかと言っているうちに間に合わなくなってしまったあの頃の愚行を繰り返したくはないのだ」
「いつか…」
「そうだ。いつかと言っているうちに、間に合わなくなる。わしは、桃葵の分まで雪華に手をかけてやりたいんだ。よく考えているうちに間に合わなくなることもあるんだ」
「……」
捷隆が口を閉じたとき、雪華は中に入った。
途端に皇帝の顔が輝いたのがわかった。
「陛下、お呼びとうかがってまいりました」
早くこちらへ、と皇帝が手を伸ばす。
雪華は、それに応じて皇帝の枕元に駆け寄った。
捷隆の顔は見ないようにしながら。
「ああ、本当によく似ている」
「似ていても当然ですよ」
捷隆が、突き放したような口調で言った。
「雪華は、宰相の娘です。たった今それがわかりまして」
「江順育の?」
「ええ」
「なるほど、そうであったか。ならば桃葵の妹の娘か。道理で似ているはずだ」
皇帝は満足そうにうなずいた。
「ああ捷隆、いつまでここにいるつもりだ。早くこの子を皇后とする旨の詔書を出さないか」
「父上、まだそのような…!」
「捷隆さま」
捷隆の言葉を、雪華はさえぎった。
「わたしは陛下のおっしゃるとおりにいたします」
「雪華…。それがどういうことかわかっているのか?父上の皇后となることが、どういう意味を持つのか」
雪華はうなずいた。
「承知しています」
捷隆の父帝の皇后となること。
それは、捷隆の義母になることも意味する。

将来にわたって、捷隆と結ばれることはないのだ。
許されないのだ。

これでいいのだ。
「わたしのことはともかく、捷隆さま。明日のことは…」
「あれは延期だ」
捷隆は、吐き捨てるように言い放った。
「それどころではない。父上、かしこまりました。では早速そういたします」
そしてくるりと背を向けると、いらだたしげに部屋を出て行った。
老宦官が慌ててその後を追った。

「延期?ああ、そういえば明日だったな、謝徳秀の娘がというのは」
「ええ、そうなんですけど…」
延期だなんて。

雪華はそれからずっと皇帝のそばにいた。
とはいえ、することといえば話し相手だけだった。
ただただ、桃葵のことを聞いていただけだった。


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