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金の過去 銀の未来
十二
高官たちが宮中に急遽呼ばれた。
そして、皇帝の言葉について話し合った。
しかし、政治の実権は実質捷隆の手にある現在、病床の皇帝が、いまさら一人の娘を名ばかりの皇后に仕立てたとて、どこの誰にも差しさわりは生じなかった。

「だが彼女はどうなるんだ」
玉座のある広間に、捷隆の声が響く。
ただ玉座はあるが、捷隆はそこには腰を下ろしていない。
彼が、実質はともかく自分はまだあくまで皇帝ではないことを自覚しているからだった。
「本人はどうなる。未来がまだあるのに、皇后なんかにさせられてはたまるまい。確かに、身分は一生保証されるだろう、何不自由なく生きてはいけるだろう。だが逆に、その身分のせいで、何も出来まい。ただここで朽ち果てるしかなくなってしまうではないか」
「捷隆さま」
高官たちが口々に言う。
「ですが、それが陛下の願いなのですから」
「かなえてさしあげるべきではございませんか」
「捷隆さま」
江順育が声をかけた。
「それで、当のその娘はいずこに?雪華とかいうそうですな」
「ああ。…ああ、そうだ、おまえ、顔を見てやってくれ。おまえの妻の姉に似ているそうだ」

雪華は別室にいた。
小さな部屋の小さな椅子に腰を下ろし、ずっと銀の腕輪を見つめていた。
がっしりとした作りのそれは、恐らく男物だった。
捷隆自身のものだと思われた。
鳳凰が浮き彫りになっている。
きれいに磨かれて輝いているそれを、雪華は何度も両手で握り締め、腕にはめ、そしてまた手にとってじっと見つめた。
一点の曇りもなく白く輝いているということは、捷隆はこれを大切にして、常に磨いていたに違いなかった。

呼びに来た宦官に連れられて広間に向かうと、皆いっせいにこちらを見やった。
だがその中で、一人の男性は立ち上がったのだ。
椅子を蹴倒さんばかりの勢いで。
それが、宰相の江順育であった。
「似ているようだな」
彼の様子に捷隆はうなずいた。
「似ているなどというものでは…まさに、瓜二つでございます。謝どののお宅の侍女だとか?」
その場にいた謝徳秀が、雪華の生い立ちを話して聞かせた。
「人さらいに…」
「当時、親を探したのですが見つかりませんで」
「何か手がかりとなるようなものは持っていなかったのか?まあ、こうなった以上、いまさら親でもなかろうが…」
「金の腕輪を所持しておりまして。雪華、まだ持っているだろう?」
「はい」
「金の腕輪?どのような?」
雪華が特徴を話すと、江順育の顔色が変わった。
「江さま、一体どうなさいました?」
場がざわめく。
「お顔の色がすぐれませんが」
捷隆も彼に尋ねた。
「どうかしたのか?その腕輪に心当たりでも」
「え、ええ…。実は昔、私どもの娘も何者かにさらわれてしまっておりまして」
「ああ、黎明から聞いている」
「その娘にも、同じような腕輪を与えていたのでございますよ。生きていれば、そう、この子と同じような年頃…」
驚いたのは謝徳秀だった。
「江さまのご令嬢が?雪華、その腕輪はどこにある?まさか屋敷か」
「いえ、こちらに持ってまいりました。大切なものですから…」
「早く持って来なさい。いや、誰かに取りに行かせよう」
謝徳秀はそばにいた宦官に命じた。
「それにしても、まさかおまえが江さまの…」
「旦那様、まだそうと決まったわけでは」
すると、江順育がはっきり言ったのだ。
「いや、間違いないだろう。娘がいなくなってしまい、わらにもすがりたい心持だったわしは占術を扱う老婆に尋ねたのだ。そうしたらその老婆は、自分には失せもの探しは出来ないので娘の居場所はわからないと。自分にわかることはただ、おまえが、皇后の父となることだと」
座が静まり返った。
「わしの娘が皇后になると言うのだ。我が家には、娘は結局その子しか生まれなかった」
雪華は江順育を見つめた。
「今までまったく信じてはいなかったのだが、こうなると、すべて当てはまる…」
「ばかなことを」
言ったのは捷隆だった。
「いや、おまえの娘が見つかったことは実に喜ばしいことだ。雪華の親が見つかったこともな。だが、そんな占術師の言葉を信じるなんぞ…」
「でも捷隆さま、わたしも昔、そういうふうに占ってもらったことがあるんです」
雪華の言葉に、皆がそちらを見やった。


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