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触らぬ神に祟りなし

「おはよ…。」

「おはよう、壱弥。…大丈夫?」

「?…あぁ、寝不足。」

「そっか。あんまり壱弥ちゃんが不細工な顔してたもんだから、つい…。」

「スイマセンネー、いつもの事デスカラ。」

率直に言いすぎなんだよ。
率直さは嫌いじゃないとは言ったが、デリカシーってもんが足りない、そりゃもう圧倒的に。
一応こっちは年頃の女の子ですよ?
…なんか、自分で言うと恥ずかしい。

「そんなに卑屈にならないでよー。壱弥ちゃんはいっつも可愛いよ。例えて言うなら…」

「はいはい。アリガトウゴザイマス。」

適当に返事をしておくことにする。

それより学校の準備だ。
登校初日にして遅刻なんてあまりに目立ち過ぎる。
ショックを受けている蓮見さんを他所に私はそそくさと用事を始めた。
それにしても眠い。
欠伸を何度も噛み殺して、ブラウスのリボンを結んだ。

「うーん、もっと早く引っ越してくるべきだったね。ごめんね。」

「ううん。気にしないでよ。もうここに来て2週間なのに未だに慣れない私が悪いんだから。」

2週間前に引っ越して来たマンションは神風学園からも近く、前に住んでいたところよりも広い(前、住んでいた所も十分広かったが)。

蓮見さんはコンピュータ関係の仕事をしていて、依頼が来れば様々なソフトを作る。勿論自宅で。
これが蓮見さんの表向きの顔。

外出を極力避けなければならない蓮見さんにとって、これは最良の仕事である。

蓮見さんのソフトはそっちの世界ではかなり有名で、高価らしい。
その為にこの豪華な家だ。

私はと言うと、経済的には完全に蓮見さんのお荷物状態。
本当に蓮見さんには感謝しても仕切れないほどだ。

唯一、私ができることと言ったら、蓮見さんのもう1つのお仕事の手伝いだが…、蓮見さん本人に「危険なことはするな。」と、止められたし。
どんだけ過保護なんだよ。
そこらへんにいる腕っぷしの強い奴くらいには余裕で勝てる自信があるんだけど。

蓮見さんの過保護さに少々、ため息をつきながら玄関のノブに手を掛けた。

すると、後ろから蓮見さんが走ってくる音が聞こえる。

「壱弥、学校まで送るよ。」

と言いながら、蓮見さんは長袖シャツを羽織る。

「いいよ。ありがとう。」

私は蓮見さんの親切に微笑んで、ノブを捻った。

「待って。」

その声に振り向くと何かに包まれる。
蓮見さんに抱きしめられていることは、すぐに分かった。
そりゃ毎日、されてたら、ね。
何でもこれは彼の日課らしい。
7年間、繰り返されるこの行為も、未だに慣れない。

「バーカ。」

と無駄に早鐘を打つ心臓を誤魔化すように悪態をついた。

「行ってらっしゃい」

奴は無駄に爽やかに言う。
緊張してるのは私だけかよ。

「行ってくる。」

なるべく冷静にそう言って、直ぐに蓮見さんから背を向ける。

元男子校なだけあって、学ラン風の制服に袖を通し、玄関を出た。

「さて、俺は壱弥ちゃんの入学式の映像でも見ようかな。」

「って、貴様!」

マジで撮影してたのかよ!



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