リクエスト小説
間桐慎二の憂鬱
間桐慎二は魔術師の家系であるマキリの家に生まれた。魔術回路は無いものの、一通りの知識は持っている。だというのに、妹である桜は魔術回路を所有し、慎二とは比べるのもおこがましい程の魔術師であった。慎二はそれが気に食わない。
「おい、ライダー。桜はどうしたんだよ」
それよりも何が気に食わないと言えば、それは桜がここ最近家に寄り付かなかったことである。
「はぁ……サクラなら士郎の家に行っていますが」
そうなのである。桜は最近というか、一年ほど前から慎二の数少ない友人である衛宮士郎の家に入り浸っていた。朝は殆どで、ここ何ヵ月かは夜も帰ってくるのが遅い。そのせいで慎二は朝食はもちろんのこと、夕食までまともなものを食べていない。来る日も来る日もカップラーメン。ライダーはというと、夕飯時だけでなくてふもらりと衛宮家へと赴き、ご相伴に預かっていた。
「またかよ!どうして僕のために夕飯を作らないんだよ!」
「何を言っているのですか。夕飯ならそこに――」
ほら、と指差す先には乾燥ワカメと書かれた袋がいくつも転がっていた。
「何で乾燥ワカメなんだよ!普通は食べないだろ、こんなもの!」
「……はぁ」
激昂する慎二にライダーはやれやれと肩を竦めた。その仕草はまるで、どうして慎二はわかってくれないのか、桜の想いこの乾燥ワカメには詰まっているのに、そう言っているようであった。ライダーの言うとおり、桜はこの乾燥ワカメにはそれなりの想いを込めていた。もちろんそれは呪いではあるのだが。
「成る程、共食いは嫌ですか。確かに、共食いは最大の禁忌ではありますが……」
「違う違う!そんなことを言ってんじゃない!」
さりげなく猛毒を吐き捨てるライダーに慎二さらに激昂。口から唾を飛ばしながらライダーへと詰め寄ったところ――
「汚いですね。近寄らないで下さい」
――ライダーはその美脚で慎二を思いっきり蹴り飛ばした。走り幅跳びの選手のようなフォームで家具を蹴散らしながら飛んでいく慎二。壁に激突してようやく止まったから良かったものの、壁がなければどこまで飛んでいったであろうか。
「殺す気かよ!」
流石はギャグキャラ。ライダーが蹴ったところで直ぐ様復活するようだ。そう、乾燥ワカメが増えるかの如くの再生力。士郎と比べても遜色無い程度であった。まったく格好良くはないが。
「シンジ、何故貴方はそこまで怒っているのですか?まったく、いったい何が気に入らないというのか」
「何がって、全部だよ!桜が夕飯に帰って来なくなってから僕はお爺様と飯を食べてるんだぜ?しかもドクロの面を着けた化け物も一緒だし……」
間桐蔵硯はとうにボケており、真・アサシンのハサンに介護してもらっている始末。そんな奴らと飯を食べて何が楽しいんだよ、カップラーメンだし、とまたまたライダーに詰め寄ったところで
「……ぐぇ!」
蛙が潰れたような音を喉から漏らして再び壁へとダイブ。ライダーが僅かにずれた眼鏡と顔にかかった美しい髪を整えながらやれやれとため息を吐く。こんな馬鹿なことに時間を浪費せずに、士郎の作るおいしい食事にありつきたいものだ、などと考えていた。
「やれやれ。こんな馬鹿なことに時間を浪費せずに、士郎の作るおいしい食事にありつきたいものです」
「口に出すなよ!傷つくだろ!」
ボロボロになりながら慎二が再生する。服は所々千切れ、腹部を蹴られたせいで今にもリバースしそうな顔色で瓦礫の中から立ち上がる。流石はワカメ、再生力だけは並でない。そもそも、美しいライダーに蹴られたということをもっと誇りに思うべきであり、ありがたいとさえ思わなければならない。
「もういいですか?そろそろ士郎のところへ行きたいのですが」
「また衛宮かよ。どいつもこいつも衛宮衛宮衛宮!衛宮のどこがいいって言うんだよ!アイツなんかちょっと優しくて料理が上手くて固有結界だとかよく知らないけどとんでもない大魔術が使えてそれで人望があって正義の味方で――僕が勝ってるとこなんて嫌味を言う才能と負け犬になれるとこぐらいじゃないか!」
さめざめと――いや、もう号泣しながら慎二が真実を語る。そういえば真実と慎二って何だか響きが似ている。いや、慎二はむしろ負け犬と言ったほうが正しいので似ても似つかぬものではあるのだが。
「見苦しですね。首でも吊ったらどうですか?」
ライダーの毒を無視して慎二は桜に想いを馳せる。そりゃちょっと苛めたりしたけど本当は構って欲しかっただけなんだぜ。ほら、桜って地味だけど巨乳だし、いくら周りが桜は微妙とか言ったところで僕は桜が好きなんだ!とかなんとか、いかにもキモいことを呟いている慎二があまりにも見苦しかったのか、ライダーが音もなく近づいてハイキック一閃。声を挙げる間もなくその場に崩れ落ちる慎二。
「今日のおかずは何でしょう」
などと、まったく気にした様子もなくライダーはその場を後にした。ライダーが去った後、慎二はいつまでも泡を吹きながら見苦しく痙攣していたとさ。
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