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Short story
報復
 
 パレスチナ、ガザ地区にあるただ一つの孤児院。
 その孤児院の遊戯室で、7歳になるハキムは画用紙を広げ家族の絵を描いていた。父、母、兄弟、赤ん坊を抱く兄嫁。8人の家族はガザの片隅で暮らしていた。

 ハキムは幼い画風で横一列に並ぶ家族を描き、それに向き合わせ兵隊達を描く。そして、考え込む。何かが足りないのだ。

 彼は黒い絵の具を取り、絵筆にたっぷりと馴染ませ、兵士の顔を塗りつぶす。

 小さな頭蓋の内に蘇る夜の記憶。

 最初に撃たれた父、次に遺体にすがる母が。やがて一斉に火を噴く自動小銃。
 意識を取り戻した時、彼の目の前にお気に入りのボールくらいの丸い塊が落ちていた。それは赤ん坊の頭部だった。

 ハキムは強くなりたかった。強くならねば、未来がないような気がした。
 戦闘化粧で顔を黒く塗り彼らを襲撃した、イスラエルの地上部隊のように。

 彼は黒い絵の具を指に力を込めひねり出すと、兵士をまね絵筆で顔を黒く塗った。

 鼻をつく絵の具の臭い。
 ぬるりと冷たい感触を肌に鏡を見て、満足そうにうなずく。
 そして家族を奪った兵士の言葉を反芻する。

「これは、報復だ」

 あの憎しみに満ちた目。
鏡の中のハキムもまたイスラエル兵と同じ目をしていた。


END




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あきゅろす。
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