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クリーンルームを思わせる白い、そして重く見える色の通路を、彼、重盛は歩いていた。

通路の天井には網でしっかりと覆われた蛍光灯が一列に並び、通路脇には転倒防止のためか手すりが備え付けられている。

彼の足取りは軽く、表情もどこか緩んでいた。

ただし、その鷹のような目を除いて。

彼は通路をどんどんと先に進む、無機質でなんの温かみの無い鋼鉄の道を抜け、ある扉の前で立ち止まった。

―司令室。

そう書いてあった、重盛が一歩踏み出すと同時に、分厚い扉が軽やかに左右に消える。

その瞬間、ひんやりとした光に通路が鮮やかな色に彩られる。

彼の背後で扉が閉まる。ヴァンシーVのコクピット、管制塔の窓を思わせるキャノピーの下に、様々な計器類が並ぶ。

その前にはヴァンシーの乗組員達が座り、レーダーや通信装置とにらめっこをしていた。

中央には黒い、しっかりとした作りの座席が取り付けられている。

さしずめ艦長席、機長席と言ったところだろう。

その座席は無人で、他に座ろうとする者は見当たらない。
重盛はその座席に腰をおろした。

「相棒との再開は楽しかったですか?」

声は重盛の座る座席から、ほとんど右から聞こえて来た。

声にはたっぷりの怒りが込められている。

「そうだな…まあ楽しかったかな」

そんな相手に、重盛は軽い口調で答える。

その様子が気に入らなかったのか、声の主はピクッと震え、しかし、毎度のことだとゆうように肩をすくめた。

「こっちはそうでもありませんでしたけどね」

そう言って座席ごと振り返ったのは、女性だった。
彼女の着用する制服に縫い付けられた名前には一ノ瀬由貴、そう刺繍してあった。

「それはすまなかったな」

今度は重盛が肩をすくめた、由貴が言いたいのは先程の“アレ”の事だろう。

フレイにも文句を言われた、攻撃。
多数取り付けた巨大レールガン、隕石迎撃兵器“ストーンヘンジ”の技術を流用して作られたレールガン“名称無し”は、凄まじい威力と同時に、超大爆音を引き起こす。
突貫工事で取り付けた名称無しの超大爆音は機体装甲を激しく揺らし、空気の振動で余す事無く機体全域に届けられた。

防音扉と防音耳当てが無ければ音だけで人を殺せるだろう。

海の生き物に悪い事をしてしまったな。

「すまなかったな、あと少しだけ、耐えてくれ」

クルー達が蒼い顔で、渋々と、しかし笑った表情で頷いた。

由貴はまったくと言いながら、自分の担当するソナーの信号監視に戻った。

「レーダーに反応、輸送船と随伴する友軍ヘリ部隊を確認しました」

オペレーターが落ち着いた声で告げる。

「まったく、この人員でこれだけの数の装置を操作するのは無理がありますよ」

細長い、知的な眼鏡をかけた女性オペレーターが振り向かずに言い、隣の計器を操作する。

本来ヴァンシーは無人空母で、搭載された人工AIで全ての装置を操作している。

外からのハッキングはそのため不可能となっている。

「なんでAIは使わないんですか?」

そんなのわかりきった態度で、先程のオペレーターが重盛を振り向いて聞く。

気がつけば全員が重盛を振り返っていた。
まったく、そんなの簡単な事じゃないか。

「生きている気がするからだ」

オペレーター達は互いに顔を見合わせ、頷き合って視線を戻した。

そうだろう相棒?

AIにはしばらく休んでもらおう、重盛はそう心に決めた。



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