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夕暮れ時のように、辺り一面がオレンジ色に変わり、冷たい海面はキラキラと陽光を反射させている。

太陽の反対側に目を向ければ、まだ明けきっていない夜の名残がはっきりと残っている。

海面から姿を表した太陽の温かな光は、空を進む巨大な姿に大きく遮られていた。

漆黒の巨躯のもたらす影に、バルスルクもすっぽりと覆われてしまい、乗組員達に不安感をもたらしていた。

そのバルスルクの甲板に、一機のヘリが着陸した。

開いた扉からは乗組員達の見た事もない、パイロットであろう男が最初に降り、続いてフレイとアリシアが現れた。

3人はそのまま艦内に入り、艦橋を目指した。

………

……



「元気だったか相棒?」

コーヒーの入ったカップを携えて、彼…重盛はフレイの横に落ち着いた。
2人がいるのは甲板で、塔のようにそびえる艦橋下だった。

冷たい甲板に直に座ったフレイは、受け取ったコーヒーを一口すすった。

「…そうじゃないようだな」

重盛はカップの液体を口に含んだ。
湯気がフレイの鼻孔にも届き、それがアップルティーだとフレイは理解した。

「右手」

重盛が言った。

「は?」

やっぱり聞かれたか、そう思いながらもフレイは、何も知らない風を装った。

「その右手の事を言っているんだ相棒。
お前はパイロットだ、それが何を意味するかわかるだろ」

重盛はアップルティーをさらに飲み、空に視線を泳がせた。

「どうしちまったんだろうな…俺は」

フレイは右手をかざした。

小刻みに震えたその右手を。

「ようやく仮面を外したのか、ずいぶんかかったな…」

重盛は満足そうに頷いた、“私”と“俺”フレイが自分にかけた仮面を、フレイは自分の意志で外した。

「なんでまた外そうと思ったんだ?」

「なんでだろうな…ただ…もうこれ以上嘘をつきたくなかったからかもしれない」

フレイは人より弱く、そして冷淡な人間だった。

そんなフレイの本質をアリシアは早くから見抜き、仮面を壊すための努力をしていた。重盛が仮面の経緯をアリシアに話したんだと、容易に推測ができた。

「戦争は人を変える、前の戦争でお前は悪い方向に変わった。
だが、今回は、そうじゃなかったみたいだな」

だが、重盛はそう付け加えた。

「相棒、しばらく休んだらどうだ?その症状は―」

フレイは手を上げてその先を制した。
PTSDの初期症状とでも言うのだろうか、仲間を失ったこと、PTSDを覗こうと仮面をつけた事。
そして仮面を剥がれ落ち、自分にかけた暗示が解けた今、自分で乗り越えるしかないのだ。

「今はこの国を救う事が先だよノンさん。
本当は俺自身、この国がどうなろうがどうでもいいと思った。

ただ…あいつが、アリシアが生まれ育った国だ。
その国が、あいつが笑えなくなるような世界にはしたくないんだ…
それに、結構仲良い奴とか増えたんだよね。そいつら見捨てらんないよ」

フレイは笑った、いつしか手の震えも止まっていた。
フレイはそれから重盛と、とりとめのない話しをした。
しばらくして、飛行甲板にシーホークに吊り下げられた機体の残骸がいくつか置かれた。

すでに誰の機体かすらわからない程壊れてしまっているのはスターシアとバーネットの機体だろう。

残骸を運び込んだヘリ部隊は、すぐに戦闘が起こった空域に引き返して行く。

すれ違うようにまた数機のヘリが残骸を引っさげ、飛行甲板に残骸を運んだ。

真っ黒いボディに重厚装甲、翼は全て引きちぎられていて、エンジンルームを中心に機体後部はボロボロだった。

しかし、コクピットを含んだ機首から前の部分はまったくと言っていい程無傷だった。

キャノピーは吹き飛んでしまっていたが、中の装甲板は損傷で、機体の高い防御力が伺える。

フレイは震え始めた右手で、拳を握った。

そこへ、アリシアを含んだ乗組員達が駆けつけた。

銃と工具をぶら下げた連中が前に進み、コクピットの解体を始める。

やがて中からパイロットの遺体が取り出され、布を被せた後、甲板に横たえられた。

「フレイ…大丈夫?」

アリシアはフレイの顔を覗き込んで言った。

「ああ…これくらい平気だ」

フレイは右手の平と甲を見て、不安を隠そうと、できるだけ自然に見えるように微笑んだ。
しかし、頬はひきつってしまって、笑うとは程遠い顔をなっているだろう。

「バーネット…スターシア…ジェーコフ…キャロライン…アスナ…」

残骸を見つめ、すでにいなくなってしまった仲間の名前を唱える。

「ビリー…ビリー…覚えているかアリシア、島にやって来て真っ先に問題を起こしたアイツだ」

「ええ…覚えてる」

アリシアは話の真意が見えないとゆうような表情を浮かべた。

「一番のチビだった…ラダーに足が届かなくてパイロットからナビゲーターに変更になった、良くあれで適性検査が通ったもんだよ」

アリシアは口の端を僅かにゆがめて「そんな事もあった」と言った。

「ビリー…ガノン…ファイン…、俺は仲間を1人失うたびに、こう割り切る。
1人の犠牲は、2人3人、もしくは10人助けるためだったと。
時にはその10倍の人数を…」

フレイは右手を抑えながら、アリシアを見て聞いた。

「俺が今まで失った隊員の数を?」

アリシアは口を開きかけたが、わからないと首を振った。

「114人だ…でも、わからない…アリシア、お前を失ってまで、守る価値のある国かな?
ノンの前では国のためにと言った。
でも、同時に彼が命を懸けるだけの価値があるかな?」

フレイはじっとアリシアの瞳の奥をみつめた、その瞳は揺れていて、わからないと言っていた。

「フレイ…私は…」

「俺はさぁ…戦争を嫌と言う程見てきた、同時に他人に自分と同じだけのものを見せてきた、あれは―」



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