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3

終わった。

機体を旋回させながら、フレイは一応の安堵を感じていた。

謀略者達に対してやっと反撃の一歩を踏み出せた事なのか、それとも目的意識によりそう思ったのかフレイ自身わからなかったが、達成感が膨らむのを感じていた。

「クロノスリーダーよりバルスルクCICへ、これより帰還する」

スピーカーから短く了解と告げるCICの声を聞き取り、フレイはスロットルレバーに手をかけた。

ここのところ、満足に寝ていないなと思いながら。

帰ろう、そう告げようとした瞬間。
馴染みの音が鼓膜を揺らした。
回転しながら突き進む砲弾、鉄が砕かれ、擦れあい、炎が吹き上がる音。
絶叫。

「ブレイク!ブレイク!」

叫ぶ前に、体が動いていた。

スロットルレバーを叩きつけ、ラダーを踏むと同時に操縦桿を傾ける。

真紅の高出力レーザーが空間を駆け抜け、射線上にあった全てのものが焼け落ちた。

「スターシア!応答しろ!スターシア!」

バーネットの声で誰が落とされたかフレイは理解した、上から落ちたレーザーはハリアーの目の前に線を落とし、回避する暇も無く、スターシアは機体ごとレーザーに焼き切られた。

「敵はどこだ!?」

アリシアは機体を翻してレーザーの一射を避け、照射源に向かって突っ込んで行く。

「くそっ!スターシアが落とされた!」

泣き叫ぶバーネットの機体がレーザーに貫かれ、鉄が真っ赤に融解して爆散する。

途端、フレイは胃が重くなるのを感じた。

だが、これはスターシアとバーネットが死んだからではない、フレイは怯えている事に気がついた。

いったい俺は何に怯えている!?
アリシアを失う事がこわいのか?

いや…違う…俺自身死ぬのがこわいんだ。

「アリシア!アリシア援っ―」

フレイはその先の言葉を言えなかった。
死ぬのがこわい、そしてアリシアを盾に使おうとしているのかお前は?

くそっ!

フレイは自分を自分の中で嘲笑い、コンソールを殴りつけた。

そのままの勢いで叫ぶ。

「アリシア、俺について来い!」

「フレイ!?」

合流しようとするフレイを狙った敵が、雲の切れ間から姿を表す。

「キャバリア!エンゲージ!」

フレイは目の前の敵機に高速で襲いかかった、正面衝突を避けるための教本の通り、敵機は右に旋回する。エアブレーキで制動をかけ左に旋回したフレイはパイザーに照射されたレティクルの中心をいびつな形の敵機に合わせ、機銃発射ボタンを押した。

初弾の遅い、放物線を描いて飛ぶ20mmバルカン砲でも、これだけ近くにいれば性能に問答など無かった。

敵機の機体下部からエンジンにかけてたっぷり機関砲をお見舞いした。
したにも関わらず、敵機は薄く黒煙を噴いただけで、失速の兆候すら見せ無かった。

背後をピッタリと取ったまま、エンジンに機関砲を叩き込んでゆく。
しかし、エンジンを保護する厚い装甲版に阻まれてしまう。

その時、敵機の背面に取り付けられた細長い円形の筒が背後を向いた。

フレイは強烈な悪寒を感じ、急降下した。

すぐに鈍い、空気を叩くような音がして、真っ赤なレーザーが発射された。

「ABL装備が、これほど厄介だったなんて」

敵機に追いかけ回されてるアリシアが呟いた。

「これがスレイプニルか…機関砲も効かないぞ!」

フレイはアリシアをしつこく狙う敵機にサイドワインダーを発射した。
回避行動を取った敵機はミサイルを難なくかわし、フレイに矛先を向けた。

「くそっ…何か方法は無いのか!?」

フレイはグローブの中で汗ばんで行く手に力を込めた、その時だった。

「ピッチ下げ降下角220、発射10秒前、急げよ相棒!」

「え!?」

フレイは呆然とした、きっと自分は笑えるような顔をしているだろう。
口元に笑みを浮かべ、フレイはすぐに機体を捻り下げた。
遅れずアリシア機も続く、逃げ出した機体を確実に仕留めようと敵機のレーザー発射口が光る。

その瞬間、見えない手に叩かれたように空中で機体が跳ね、一瞬レーダーサイトにノイズが走る。

直後、防音のためにヘルメットに内蔵された耳当てが無意味なくらいの轟音が轟き、レーダーサイトに写る敵の反応が1つ消えた。

「ーーーーーっ!この!」

フレイは片手でヘルメットを、耳のある部分を抑えて言葉にならない押し殺した声で叫んだ。

「よう相棒、まだ生きててくれたか」

「重盛中佐…」

「アリシアか、どうやら舞台を台無しにした黒幕の存在に気がついたようだな。」

重盛は笑い声を上げた、重盛の機影が暗闇の中でパッと光り、中距離ミサイルが発射された。

それが合図となり、フレイとアリシアはターンし、重盛機と相対速度を合わせて編隊を組み上げた。


「ノンさん、あれはやらない約束じゃなかったのか!?」

「フレイ、ヴァンシー機内はもっと悲惨だ。
砲身が機体に繋がっている分反響した音には逃げ場がない」

フレイは乾いた笑い声をあげるしかなかった、フェアリー隊の所持する重巡航管制機“ヴァンシー”機体に取り付けられた幾つもの対空レールガンの集中砲火は、とてつもない破壊力を秘めている。

「あれは音響兵器としても十分な破壊力だ」

フレイは生き残った輸送船団をちらりと見た。
何も知らない彼等が少しかわいそうに思えた。

「さあ行くか相棒…フェアリー1スコール、エンゲージ!」



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