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「やっぱり無理か」

真っ暗な貨物の中、フレイは戦闘機のコクピットにうずまっていた。シートから足を投げ出し、計器盤の上に乗せている。

なんとか戦闘機に電源を入れ、輸送機の施錠を突破しようと思ったフレイだったが、フレイはそれができなかった。

「こんな機体…」

フレイの戦闘機乗りとしてのプライドが、この機体を操作する事を阻止していた。
今の状況でプライドなど言ってはいられないのだろうが、こんな兵器を使うくらいなら、フレイは死んだ方がマシだと思っていた。

「さて…どうしようか」

フレイは寒い機体の中で、小さく息を吐いた。

その時だった、外で聞き慣れた音が聞こえた。

「銃声か…」

どうやら仲間が行動を起こしたようだった、ならフレイにはもうする事はない。
待っていればいい。
フレイは小さく笑うと、コクピットに深く潜り込んだ。




「急げ急げ急げ!」

ルディは撃っていた、彼の手の中でカービンが振動する。マヌケなボーデン大佐の叫び声にやって来た連中が、拳銃を構えて何かを叫んでいた。

しかし、規則的に吐き出される5.56o弾の轟音に全ての音がかき消されていた。
おおかたボーデンの無事を確認していた程度だろうが。

「確保して!」

アリシアがM92Fを発砲しながら叫ぶ、背が高く線の細い彼女には不釣り合いな代物だと、ルディは思った。
しかし、そんな事を考えている余裕は無かった。

「くそっ」

ルディの右太股に鈍い衝撃が走り、血が噴出した。
痛みに顔をしかめ、片膝をついたルディは、額に汗を浮かべながら撃ち返す。ルディを撃ったボーデンの部下が倒れ、その穴を埋めようと数人が場所を移動する。

「ひいぃぃー!」

飛び交う弾丸に怯えながら、ボーデンは匍匐しながら逃げようとしていた。
奴らは銃撃に気を取られていて気づきまい、それに馬鹿な部下共め!
この私を助けるのに時間をかけすぎだ、あんな連中さっさと殺せばいいのだ、それが出来ないなら時間を稼ぐために、盾になっていればいい。

「ボーデンが逃げる!」

アリシアが匍匐するボーデンに気づき、捕らえようと飛び出すが、銃撃にさらされ、慌てて弾薬ケースに身を隠した。

「くっ」

アリシアが立ち上がり、走って逃げようとするボーデンに銃を向ける。

「アリシア中尉!駄目です!」

リアサイト越しにボーデンを睨みつけていたアリシアだったが、悔しそうに顔をしかめると、銃をおろした。

「速く速く速く!」

ボーデンは死ぬ思いを味わいながらも、必死に輸送機のタラップを駆け上がっていた。

「もう許さん、この私をこんなめにあわせおって!野蛮な辺境基地はこれだから!」

ボーデンは貨物に続く扉の施錠を吹き飛ばし、転がるように貨物に入り込んだ。
機体を覆うシートを乱暴にはがし、ボーデンは息をつく間も無くタラップを駆け上がった。

そこに人が居るのも知らずに。

タラップを登りながらボーデンは思っていた。
これで自分は安全だ。
後はこの機体で基地を破壊すれば、厄介払いができる。

問題なのはあのベルカ人司令官だ、奴が死ねば、確実に私は組織の、使い潰しの駒に格下げされる。

「くそっ!この私をコケにしてくれる!
許さん!私は世界を!圧倒的な力を手に入れるのだ!」

ボーデンがタラップを登りきった、その時だった。

「誰を許さないんだって?」

「んぶっ!?」

突然伸びてきたブーツの裏が、ボーデンの鼻にめり込み、ボーデン自身の首を、大きく後方に仰け反らせた。

そのまま地球の慣性にのっとり、重力に捕まったボーデンは、真っ逆様に地面へと激突した。

そしてボーデン自身より軽い血液が、音を立てて落下する。

「つっ…」

痛みにうめいたボーデンは、必死に体を動かそうとした。
しかし、視界は真っ暗で、涙でぼやけ、鼻の奥が痛む。
おまけに体が動かない。

「ボーデン大佐…いや、元大佐…フレイ・ジャックハート中佐です。覚えておいてでしょうか?」


「き、貴様こんなところに隠れていたのか!」

地面に張り付いたまま拳銃を構える。
っが、後ろからルディやアリシアが走ってきた。

「そこまでです!」

アリシアが声を上げる。

「っち…」

小さく舌打ちしたボーデンはルディが体を強引に立たせ、引きずるようにして機体から出て行った。

さて、そろそろ治療を受けないと。

フレイは慎重に機体から飛び降り、膝で十分に衝撃を吸収した。

「フレイ!」

ドンッ!とゆう衝撃と共に、アリシアがフレイに飛び込んでいた。
腕を使えないフレイは、受け止める事も、抱きしめる事もできずにいた。

「心配した!」

アリシアが言った、瞳に涙をためながらも、下からフレイを睨んでいた。

その姿に、フレイは小さく笑った。そして安心していた。

「…すまない」

出血のせいで下がった体温には、アリシアの暖かさは心地よく、いい眠気がフレイを襲っていた。

「アリシア中尉、ハート中佐は肩を撃たれていますので。医務室へ」

スターシアが、フレイの手錠を外した。
その表情には、先程の後悔の念が現れていた。

「気にするなスターシア少尉、撃たれたのは君のせいじゃないんだから」

フレイは手を振りながら、アリシアに支えられ、機体から降りた。

傷口は痛かったが、フレイの心は晴れやかだった。

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