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少将と共に、彼の部下の1人も退出する。こうなっては仕方がないと、フレイは仕方無く話を進めた。

「これはノース・オーシア・グランダー・インダストリーの兵器開発計画書です」

フレイはボーデン大佐から視線を外さずに、慎重に言葉を紡いだ。

「グランダー社は今やオーシアにその技術を使用する会社です。そこに何故“ユークトバニアの国旗が表示されるのかはまったく謎ですが”これは我が基地に残された、グランダー職員が使用していた情報端末に残されていたデータです」

ボーデン大佐はゆっくりと、画面に表示されたデータをスクロールする。

「その中にはG計画と呼ばれる、“特殊戦術殲滅戦闘攻撃”と名付けられた兵器群が記載されています。どれも正気の沙汰とは思えない代物ばかりです。」

そう、あれにはレールガンから多弾頭炸裂ミサイル、そして戦術核と言った、決して使用してはいけない兵器が多数乗っている。
そしてその幾つかがロールアウト完了、もしくはロールアウト目前と言った状況なのだ。

「そして殲滅戦闘用特殊戦闘機群、その中には無人機も含まれ、我々がこの島で行った研究データが使用されていると思われます」

フレイはスターシアと、ボーデン大佐が何か言うのを、固唾を飲んで見守った。
やがてゆっくりと顔を上げた大佐の表情は、酷く歪んでいた。

あぁ、コイツはマズイ。

フレイはそう思った。
思えば基地を襲撃されてから、彼らの到着まで速すぎる。
しかるべき調査も何もなく突然の派遣だった。
だから、これでオーシアとベルカの悪事を暴露して、“一滴の血も流さずに戦争を終結させる”ことは“できなくなった”のだ。

「そこまで知ってしまったか…これだからディースグロリア航空連隊には任せておけんと言ったんだ」

ボーデン大佐は懐から拳銃を取り出し、ゆっくりと持ち上げた。

「!?」

鈍く光る拳銃を見て、咄嗟に腰を浮かせたフレイだったが、入り口に佇んでいた男の握る拳銃が、フレイの背中をトンと叩いたため、フレイは両手を上げてソファーに座りなおすはめになった。「失礼。わかってしまったと思うが、私は君達の事情聴取のためにこの島を訪れたのでは無い。
間抜けなグランダーの残したデータを破壊しに来たのだ。
そして、君達と、この基地を破壊するために」

部屋の中を重たい空気が流れる、ボーデン大佐は揶揄するような口調で続ける。

「君達の目にした計画書にあった、殲滅戦闘用特殊戦闘機群…あの中の一機は既にロールアウトされている、そして今この基地にある」

「試してみたいのだよ、あの兵器の破壊力を!
君達だってそうだろう!?
戦場では素晴らしい兵器を常に求め続けて来た。
最新鋭機を手にした瞬間の輝きを君だって知っているだろう?
人は常に圧倒的な力を求めるのだよ!」

ボーデン大佐の銃を持つ手が細かに震える、額からは汗が流れ出し、瞳の焦点は定まっていなない。

フレイはその姿に戦慄を覚えた、この男を基地の外に出してはいけない。
この男にそんな兵器を渡してはいけない。
そう思った。

「さて…君達には2つの選択肢がある。
あの計画書が君達に渡った時点で、我々の計画と、裏に誰がいるのか知った事だろう?
ならば私と共にこの愚かな世界に裁きを下そう!
際限なく続く争いに終止符をうとう!
そうすれば世界から戦争は無くなる、私と共に―」

「ふざけるな!」

フレイは叫んでいた。
そんな都合の良い話があるが。
戦争を終わらせるために、この世界から戦争を無くすために、犠牲を重ねる。
こいつらのしようとしていることは、傲慢で卑劣な、自分達の事しか考えていない、“そっちの人間にばかり都合の良い世界造り”だ。

「今こそオーシアが最強の国家であると示す時なのだよ!屈強な国は屈強な軍人達のみで成す。
こんな戦争で死ぬ兵士など国のレベルを下げるだけの役立たず共だ。
貧弱な国家は今こそオーシアの物になる、それこそが世界のため、国民のためなのだ。
アップルルース副大統領もきっとそう言ってくださるに違いない!」

「国のために民間人が犠牲になる、それは国民の本望でもあり義務なのだ!」

「このっ―」
「それは素晴らしい考えです、ボーデン大佐」

「なっ―なんとおっしゃいました?ハーベット大佐!?」

「素晴らしい考えだと言ったんだ、フレイ・ジャックハート“元中佐”」

ハーベット大佐は手を叩きながら、ボーデン大佐に歩み寄った。

「よろしければ私もその計画に参加いたしたい。
最強の国家と最強の軍。
この兵器群がロールアウトされれば、戦局は覆りますな」

「そうだ!そうだともハーベット大佐!すでに今の軍は過去のもの、オーシアは生まれかわるのです」

ボーデン大佐は立ち上がり、思わぬ賛同者に興奮を隠せない様子だった。

「ボーデン大佐…貴様、最初からそのつもりだったのか!?」


「そうだ」

怒りを隠さずに、睨んだまま言ったフレイに、ハーベット大佐は短く告げた。

「この裏切り者!」

フレイは勢い良く立ち上がり、ハーベット大佐めがけて拳を振るった。
バキッと鈍い音がして、ハーベット大佐は壁に吹き飛んだ。
フレイの拳に熱い衝撃と痛みが残る。
殴られた拍子に、ハーベット大佐のサングラスが外れ、床に落ちる。

次の瞬間、フレイの左肩に鋭い衝撃が走った。
最初は何かわからなかった。
しかし、すぐに激しい痛みと熱に見まわれ、フレイはその場に倒れ込んだ。

「ハート中佐!?」

スターシア少尉の叫び声が部屋に小玉するが、フレイの耳には届いていなかった。
フレイの胸を、生暖かいものが流れていく。
細胞を焼き尽くさんと駆け抜ける痛みに顔を歪めながらも、フレイは懸命に起き上がろうとした。

目の前では尻餅を付き、殴られた頬に手の甲をあてたハーベット大佐がこちらを見ていた。

くそっ―!結局最後はコレか…

そう思いながら、フレイはなおも起き上がろうと努力していた。
この至近距離で撃たれたためか、なかなか衝撃から立ち直れない。
相変わらず肩は痛いし、息が詰まる、視界も涙でぼやける。

発砲音がしなかったから、サプレッサーつきか…これじゃあ誰も気づいてくれないな。
ぼんやりと考えていたフレイの後頭部を、鈍い衝撃が襲った。

その瞬間、フレイの意識は遠ざかり、最後に見たのは、壁に飛び散った、自身の血の飛沫だった。


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あきゅろす。
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