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おとなりさん
甘く溶ける
最近、カナメの様子がおかしい。
いや、まともになったと言うほうが正しいのだろうか。

気づいたら学校をサボらなくなっていた。
顔にキズがないからケンカもしていないみたいだし。

それと、金髪黒メッシュだった髪を真っ黒に染め直した。
黒い髪のカナメなんて小学生以来見たことなかったから本当に驚いた。
けれどあの綺麗な顔をしている幼馴染みはどんな髪型だって似合ってしまうから憎らしい。
むしろ黒髪になって前より色気が増した気がする。
…つーかこれ以上女にモテてどうすんだよ。

あと、あとは…。
なんというか、俺を見る時の表情が異様に甘ったるくなった、ような…?


最初はただの恋人ごっこだと思ってたんだ。
良く分かんないけど、フラフラとしている俺の性根を叩き直してやろうって感じで、監督されんのかなあ、くらいな。

でも違った。
カナメは本当に俺を好きなんだって、それを全身全霊で俺に伝えているのが分かって、正直戸惑った。(戸惑った末、現状維持してるわけだが)

恋愛感情の「好き」を今まで誰かに対して実感したことがなくて。
どんな女の子と付き合っても良く分からないまま時間だけが過ぎ、最終的には「私のこと好きじゃないでしょ」と言われフラれてしまう。

女の子たちを可愛いなと思う。優しくしてあげなきゃって気持ちにもなる。
けどそれ以上の、自分の気持ちがワッと高揚するような…決定的な何かが足りないんだよな。

カナメに対する気持ちは、家族を大事に思うそれと近い気がしていて。
近くにいるのが当たり前で、何かあれば心配するし、助けてあげたいと思う。そこに見返りを求めるような下心は一切介在しない。

純粋な庇護欲。うん、そんな感じだ。


恋人宣言をされてから今日まで、カナメは一度だって俺に無理やりなことはしてこない。
不良みたいな外見に似合わず優しいんだよねー。
まあ、キスは何度もしたけどね。
セックスに結び付かないキスって、なんか照れる。

カナメとキスしてると、もう次にいってもいんじゃね?って気持ちになるけど、アイツは違うみたい。
どうやら俺が完全にカナメに落ちるまでは今の状態をキープするつもりでいるっぽいんだよなー。

てかもーこっちとしては完全に生殺し状態で辛いんだけど!

心より身体が先行するのはいけないことかなー?
俺は男だし。別に今更どうなったって、ねえ?

そんな訳で、現在欲求不満が募りに募って暴走しそうな遠藤明弘クン17才ですよ。コンニチワ。


「帰んないの」
「ふおっ!」

ぼんやり物思い(主に煩悩)に耽っていたら、カナメがいつの間にか目の前に立っていて、俺を見下ろしていた。

うーん、いかんいかん。
教室で何トリップしちゃってんだ、俺。

「…なんだその顔は」
「え、俺?なんか変な顔してた?」

顔を両手で押さえていると、カナメが俺の隣にどかりと座る。
長い足を組んでこちらを覗き込むように俺を見ているカナメ。
あー、やっぱりいつ見ても綺麗な顔だし。
本当うっとりするわ。

見惚れていると、ふ、と笑い声を洩らしたカナメが口を開く。

「口半開きにして、アホ面に研きがかかってるけど」

なんだとう。

「…うわ、まじでー。カナメのこと考えてたら俺アホになるみたいだわ」

にっこり笑って答えてやる。
女の子はこういう時嬉しそうに頬を染めるけど、カナメは違う。

「へぇ?良い傾向だな。もっとアホになれば」

そう言って不敵に笑う。
もう、その顔ヤバいから。
てかこいつ、絶対分かってやってるしね!

「…なーんでいつもそんな余裕綽々なんだよ」

唇を尖らせて抗議する。

告白してきたのはカナメなのに。
惚れた方が負けなんて嘘だ。
振り回されて翻弄されているのはいつも俺の方。

「…余裕があるように見えてんなら、お前はまだまだ俺のことが分かってねぇな」
「えー?」

そうなの?
ちょっとびっくり。

そのポーカーフェイスで俺をだましてたってこと?
本当は俺にドキドキとかしちゃったりしてんの!?

「ふーん…そうなんだ」

にやけながらカナメを見ていたら、右頬をうにーっとつねられた。

「イタイイタイ!なにすんだよー」
「笑ってんな、コラ」
「だーってさ、っ」

言い返す前にカナメの唇が俺の口を塞いだ。

…ちょっと、ここ学校!!

「っもー!何考えてんの!?こんなとこ誰かに見られたらどうすんだよ」
「だから、余裕ねぇって言っただろ。お前が煽るのが悪い」
「はー?俺がいつ煽ったって?」

文句を言うと、カナメの長い指が俺の髪をくしゃりと掻き混ぜた。

「お前の存在自体が煽ってんだよ」
「…」

すげー殺し文句だね。
女の子だったらきっと死んでるよ?

「カナメのタラシ野郎…」
「うるせぇ。こんなことアキにしか言わねーし。ほら、帰るぞ」

もーもーもー!そういうところがさー!
ぜーったいタラシじゃん。

熱くなった頬を手の甲で冷やしながらどうやって仕返ししてやろうかと考える。

「…家帰ったら続きする?」
「あ?」

俺の言葉に怪訝な顔で振り向くカナメ。

「キス以上のことする?」
「…しねぇよ、ばーか」
「なんで?」

追い討ちをかけるように迫ってみたけど突っぱねられた。

ほんっと頑固だよねー。
だって据え膳だよ!?なんで断るかなー。
てかもっとびっくりして欲しかったのに!ブレない奴。つまんないなぁ。

「サカった童貞みたいなこと言ってんじゃねーよ。つーかてめぇ、その前に俺を好きだと認めろよ。話はそこからだ」
「えー、そこははっきりと言えないところがツライよね」
「ツライよね、じゃねーよ。ったく」

カナメは苦笑しながら俺の頭にぽんと手のひらをのせた。

うん、そういう顔も悪くない。
だって俺がそうさせたんだもんね!

「…まぁ、いいわ。お前のこと永遠に手離す気ねぇし。こんなん時間の問題だろ」
「わー、すごい自信!」
「ふん、お前が自覚してねぇだけだからな。余裕」
「えぇっ、そうなの?」
「そう」
「…そっか、ふーん?」

そっかそっか。
俺ってとっくにカナメのこと好きだったんだねぇ?

あんまり実感はわかないけど。
カナメが言うならそうなのかもね。


今はまだ未知の思いを胸に秘めたままだけど。
これからもよろしくね、って意味を込めてカナメの手をぎゅっと握り締めた。


end.

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