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窮屈な檻
解放


「…は?」
「もう、会わない、から。だから、これからは連絡してこないで」
「……あ、そ」


正直、なめていた。
こいつだけは、絶対俺を切ることはないって、確信していたから。


いつからだろう、教室で誰かの視線を感じるようになったのは。
俺は元々モテるタイプだったし、こういう視線には慣れていた。
まぁでも、その視線の主が男だと分かった時にはさすがに驚いたけど。
最初は女を奪られた的な逆恨みか?とも思ったが、あの目は明らか俺に対して思慕の念を抱いているものだった。

そいつは、風が吹いたら飛ばされてしまうのではないかって感じの華奢な男で。
だけど黒くて長めの前髪から覗く涼しげな目元には、なんとなく引きつけられるものがあった。

「なぁ、あいつの名前知ってる?」
「あー、いつも一人でいるコだよね?確かぁ…」

クラスメイトの女に聞いてみたところ、あいつは『中村瑞樹』というらしい。
その後も、奴から感じる視線は収まることなく、そのうち中村が俺を見ているのか、俺が中村を見ているのかわからなくなるほど、あいつを目で追うようになっていた。

(なんだよ、これ?)

男から恋愛感情で見つめられているなんて本来なら気味が悪いと思うはずなのに、中村に対してはそういった感情が全く湧かなかった。
どうしてだろう?
よく、分からなかった。
だから、試してみたくなった。この疑問の行きつく先を。


けれど、俺はこの時感じた好奇心からの行為を、のちに後悔することになる。


すぐに、俺は中村と身体を重ねる関係になった。
意外だったのは、あいつにとって俺が始めての相手ではなかったということ。
妙に慣れた様子に、胸の奥で何かがチリっと燃えるような感覚を覚えた。
そして、このままこいつを抱き殺してしまおうかという思いさえ沸き起こる。
この感情の意味は…?


誰といてもあいつのことが頭から離れない。
女と一緒にいる時でさえ、すべてがあいつに重なって見えていた。

ちょっと試してやろうと軽いノリで始まった関係なのに、この様は一体なんだ。
男にハマるなんて、そんなこと、この俺が?

その事実を否定したくて女と遊びまくった。
なのに、あいつを忘れようとすればするほど、その存在を求めるようになっていく。
そして最終的には我慢しきれなくなってゲームオーバー。
その繰り返し。
完全に中毒症状だ。


こんなの、俺じゃない。

だから、俺を狂わせる中村に冷たい態度をとり続けた。
本来の俺ならきっとこうするはずだから。
そしてそんな俺に対してすがるような目で見つめてくるあいつを確認し、どこか安心する自分がいた。

これ以上狂いたくないのに、それでも離れることができない。
悪循環は続いた。


その結果がこれ。
当然の報いだ。俺に傷つく権利なんてひとつもない。
俺から終止符を打つことなどできなかったし、むしろこれで良かった。
…良かったんだ。

中村、俺は結局お前に一度も好きだって言わなかったな。
あぁ、でもお前から直接その言葉を聞くこともなかったか。
俺が、そうさせたんだよな。

ごめん。俺は、この感情を認めることができなかった。
これ以上、自分が自分でなくなるような感覚に、この身を任せることができなかった。
ごめん。もっと、お前に優しくできたら良かったのに。結局最後まで傷つけることしかできなかった。

許してほしいなんて思わない。
そしてもう二度と伝えることはできないけれど。

さよなら。
お前のこと、好きだったよ。


end.

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あきゅろす。
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