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窮屈な檻
limit


両想いだと思っていたわけではない。
でも、
それでも愛されたいと願わずにはいられなかった。


大学内のキャンパス。
べンチに一人座っていたところ、語学のクラスメイトである葉山豪に声を掛けられた。

「お前さぁ、よく俺のこと見てるけど、俺のこと好きなの?」
「…っ」

初めて話しかけられたのがこの言葉。
衝撃だった。
自分の思いが彼に知られていたこと。
驚きを隠せず、目を見開く。同時に激しい羞恥を覚えた。

そしてそのあとすぐに襲ってきたのは、彼に気持ち悪がられてしまうという恐怖感。
すぅっと、背筋が凍る思いだった。

すぐに否定をしなければ。
何を言ってるんだよ、と笑って抗議しなければ。

「…な、」
「俺のものになる?中村なら、いいけど?」

信じられなかった。
葉山は女のコにとてつもなくモテる。
平凡な俺(しかも男)なんか相手にするわけない。
やめておけ。まともな恋愛が成立するわけないし、泣きを見るのはお前だよ?

頭の中で警笛音が鳴り響く。


なのに、俺は。
彼の言葉に、躊躇することなく首を縦に振っていた。



案の定、彼とつき合うことになってから、幸せを感じることはほとんどなかった。
いや、彼と一緒にいられるほんのわずかな時間だけは、幸せだったのかもしれない。
でも、そうでない時間の方が多すぎた。

彼はすぐに別の女性たちと関係をもった。

「葉山、浮気してるの?」

首に所有のマーク。
もちろん俺はつけたことなどない。

「は、浮気?てか、俺、中村とつき合ってる訳じゃないし。お前も好きにしていいんだよ?」

彼は残酷な言葉を吐いて、俺を喰らい尽くす。
分かっているくせに。俺の全ては彼のもので、だけど俺は彼のほんの一部しか与えてもらえない。

【新しいおもちゃを見つけた】
彼にとって俺は、それぐらいの存在だったのだろう。
それでも良い。それでも彼の傍にいられればと思っていた。

それも長くは続かなかったけど。


彼に会えない日が増えた。
学校で見かけることはあっても、そこで言葉が交わされることはない。
彼の周りには常に綺麗な女の子が(代わる代わる)いて、それを目の当たりにするのが苦痛だった。

部屋に一人でいると、今、彼は誰と一緒にいるんだろうと嫉妬で気が狂いそうになる。
鳴らない携帯を握りしめ、彼からの連絡を待つ自分。
いっそのこと、彼の部屋の前で腕を切って死んでやろうか。
そうしたら、一生俺のことを忘れないでいてくれる?

そこまで考えて、涙が止まらなくなった。

「だめだ。このままじゃ壊れちゃうよ…」

もう、限界だった。


葉山は、いつも急に思い出したかのように連絡をしてきて、ふらりと俺の部屋にやってくる。
会うのは本当に久しぶりだ。
あと、5分もしないうちにここへやってくるだろう。

今日で最後。もう会わない。
本当は、直接それを告げなくても良かったのかもしれない。
俺が電話に出なければ、そこで関係は終わっていただろう。

それでも、最後に一度だけ会いたかったんだ。
ただの俺のわがまま。
でも最後だし、これぐらい許してくれるよね?
本当に心から好きだったよ。葉山の全部が欲しいなんて、思わないでいられたら良かった。
そうしたら、葉山が飽きるまでは一緒にいることができたのかな。


アパートの階段を上る音。
その音が、二人の関係に終わりを告げるカウントダウンのように聞こえた。

すでに俺の中の嵐は去っている。だからもう涙は出ない。


ありがとう。
そして
さよなら。



end.

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