本編(今宵) 4 青樹は、戻って来た陸をチラリと見た後、何故か苦い表情を見せた。 「…わかってるって言ってんだろ。…………ああ………」 イライラしてるような、困っているような青樹の態度を陸はジッとみつめる。 「……それなら、今からでも良い。 ああ、わかった」 電話が終わった青樹は、軽く悪態を付いた後苛立たし気に携帯を閉じた。 陸はそんな青樹を不安気にみつめる。 【今からでも良い】 青樹は確かにそう言った。 今からって、何が? 今は、僕と一緒に居るのに? 一体、誰と? 陸の頭を駆け巡る沢山の疑問。 青樹が発する言葉を不安気に陸は待つ。 「悪い、用事が入った」 ほら、予想通りの答えだった。 陸の胸は得体の知れない何かに、押し潰される。 「……っ、そうみたい…だね」 何でこんなに可愛くない返事しか出来ないんだろう。でも、行かないで。なんて、我が侭を言える訳がない。 陸は自分自身の欲と闘った。それでも勝つのは決まって、理性。 青樹に迷惑がられないで、少しでも長くこの関係を続けられる様に、都合の良い相手を演じなければ。 陸は、自分自身に言い聞かせた。 「大変だね、なのにごめんね。僕なんかの相手させちゃ って、」 出るのは決まって謝罪の言葉だけ。 何がどう自分が悪いかも陸は分かってもいないのに、自然と口から出てしまう。 「……お前は、悪くないだろ。何で、謝るんだよ」 青樹は顔を歪める。 陸は訳が分からずに、首をかしげる。 「…兎に角、送って帰るから」 青樹はそれだけ言うと、伝票を持って会計を済ませに行った。 急いで青樹の後を付いて行った陸が、財布を取りだそうとすると、「出すな」と、青樹が陸の腕を掴んだ。 彼女の様に扱って貰える事が、少しだけ今の痛みを和らげてくれた。 戻る進む [戻る] |