本編(今宵)
4
「陸が嬉しいなら、俺も嬉しいけど………何か嫌だ」
「ごめんね、昴。そんなに嫌なら、止めようか?」
渋っている昴に陸は問い掛ける。
「ごめん、そんなの駄目。いっといでよ、楽しみにしてたんだろう?」
無理に昴が笑っている事は一目瞭然で、陸はいくら楽しみにしていたとしても昴にこんな顔をさせてしまうのなら断ろうと決めた。
「うんう、そんな顔してる昴を置いてなんかいけないよ」
にこりと笑って陸は言った。
「そんな顔ってどんな顔だよ」
陸とは違い昴は何とも言えない顔で笑っていた。
「兎に角、行って良いからな。たまには一人で食べるのも良いし」
昴の目線は自然と隆志の姿を捕らえていた。陸もそれを追って隆志を見る。
其処には一人の生徒と楽しそうに話している隆志の姿があった。
「なんての?ちょっと置いてかれた気分になっちゃっただけ。隆志の奴、急に付き合い出したりするしさ」
そうなのだ。
隆志は昨日、告白してきた人と付き合い出すことになった。
今まで頻繁に告白を受けていたが、全て『好きな人がいるから、ごめんね』と、丁重に断っていたにも関わらず、昨日突然『YES』の答えを出したのだ。
なら、告白してきた人が想い人なのかと言えばそうでは無いらしい。
『君が二番目で良いのなら付き合うよ』
それが隆志の答えだったらしい。だが相手はそれでも充分嬉しかったらしく、泣きながらそれを喜んでいたとの事だ。
「本当に、ビックリだね。なんか寂しいね…」
「…別に其処まで寂しく無い。けど…………結局、友達より恋人なんだな…」
その昴の言葉が、酷く悲しく陸は聞こえた。
『恋人が出来たとしてもお前が一番だよ』
そう
「言ったくせに」
「えっ?」
小さな昴の呟きが聞こえ無かった陸は聞き返す。
「うんや、なんでもない。あっ、ヤバ…今日売店なんだよ。じゃっ、そう言う事だから楽しんでおいでな」
「ちょ、っ、すば…!」
陸が止めるまもなく昴は財布を掴んで教室を出て行った。
陸はその背中が見え無くなっても廊下を見つめていた。
そして、隆志もまた見つめていた。
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