本編(今宵) 崩壊 好奇心と呼ぶには重すぎて、出来心と言うには切なすぎて 後悔する事は分かりきって居るのに、足は後を追って行く。 本当に、偶然その姿を見つけた。 綺麗な女の人と腕を組んで歩く愛しい人。 前にもこんな事があった気がする。あの時はキスシーンを見てしまって、それが引き金になり相良との関係が始まった事を、陸は思い出した。 あんな想いをするのはもう嫌だ。 なのに足は止まらない。 後をつけるなんて、罪悪感が募る。けれど、僕は仮にも恋人なんだと、だから良いんだと陸は自分自身に言い聞かせていた。 ちょこまかと、後を付ける陸。バレない様にと気を使い不自然に動く陸の姿に、周りの目線は何時も以上に陸に突き刺さる。だが、今日の陸にはまったく視線が気になる事は無かった。 「………で……………しょ?」 周りの音と距離とで二人の会話が思う様に聞こえない。陸はそんな状況に次第に苛立つ。 何をそんなに彼女が楽しそうに話しているのか、気になって気になって仕方が無いのだ。 そんな時、丁度差し掛かった横断歩道の信号が赤に変わった。 少し前にいる二人も足を止める。 今なら… 今なら二人に近づける。咄嗟にそう思った陸は、人垣を分けて前へ前へと進んで行く。 こんなに近くまで行く予定は無かった。けれど、その場の勢いで二人の真後ろまで来てしまった。 陸は胸に鞄を握り締め、気付かれません様にと鞄に顔を埋める。 だが、至近距離に来たお陰か煩い中でも二人の会話が良く聞こえてくる。 「其処のね、スープがまた絶品なの!青樹に絶対食べさせたいって思って、やっと予約がとれたのよ」 二人はこれから食事をしに行く事が会話から聞き取れた。 戻る進む [戻る] |