本編(今宵) 3 「あのー、すみません…」 昴は遠慮がちに二人に声を掛ける。 「俺………邪魔ですかね?」 何とも言えない顔で昴は二人を交互に見る。 「えっ、なんで?」 陸は首を傾ける。 昴の言葉の意味を何となく感じ取った相良は、苦笑いを溢す。 「なんでって……」 昴は理解しているであろう相良をチラリと見る。 「ははは、ごめんね。俺が二人の邪魔をしてしまったね」 相良はそう言うと、右腕に付いている時計を確認する。 「ああ、しまった。もうこんな時間じゃないか」 「ごめんなさい、なんか止めちゃって」 「いや、陸のせいじゃないんだから。じゃあ、ごめんけど俺はこの辺で失礼するよ」 相良は昴に近より、何か耳打ちした後、二人に手を振りながらその場を後にした。 「昴…どうしたの?」 昴は顔を赤く染め、先程相良に囁かれた方の耳を押さえていた。 「嫌………、なんか………うん。ビックリした……」 昴はそう言った後、大きく深呼吸をした。 【陸をこれからもよろしくお願いします】 なんだろう 違和感が昴を埋め尽くす。 顔が赤くなったのは、ただビックリしたから。 流石の昴でも、あんな色男に耳打ちされれば赤面してしまう。 陸と相良を取り巻く雰囲気。 それは生徒と先生と言う関係には、酷く似つかわしく無かった。 「なぁ、陸」 「ん、なに?」 陸はニコリと笑う。 次の言葉を聞いて、後悔するなんて知らずに。 「あの、紫鳳院さんだっけ?あの人、本当に家庭教師なわけ?」 何かを探る様な、そんな目を向けられる。 「…なっ、なに言ってるの、…もう、訳わかんないよ」 陸は必死に笑顔を貼り付ける。 「だって、あの人どう見ても会社勤めの社会人だし、家庭教師って感じじゃないじゃん」 鋭い言葉が陸に突き刺さる。 別に責められている訳でわ無い。なのに責められている気分になるのは、【罪】を分かっているから。 戻る進む [戻る] |