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リクエスト
1
医学部の幸村がその飲み会に出席したのは偶然だった。六年制の医学部に在籍している幸村が大学を卒業するには最低あと二年かかる。だが、今年卒業のほかの学部の友人達に誘われ、特に予定もなかったのでそれに応じたのだ。広く交友関係を築くタイプではなく、酒を飲みながら話ができるのは本当に一握りしかいない席でじゃっかんの退屈感を感じていたが、幸村はひそかにこの宴に来たことを幸運に思っていた。同時に、もう少し近くの席に座れれば良かったのに、とも。
その幸運の源は、幸村からは少し距離がある場所に座していた。学部をまたいで人気のある彼女、政宗のまわりには人(半分以上男だ)が絶えない。気兼ねなく彼女に近づける者達を少し羨ましく思いながらも、あの輪の中に入ることを幸村は考えていなかった。
もちろん、想い合う関係になれたらどんなに素晴らしいだろう。そう思うこともある。だがそれ以上に、自分のような人間に振り向くはずが無いと後ろ向きな感情が彼を支配していた。医者になる。その夢の為に今まで勉学に励んで来た幸村は、恋愛に対してひどく奥手だったのだ。
見ているだけでいい。彼女が幸せならば…。

しかし、そんな日々も終わりを迎えることになってしまう。

幸村は頭を抱えていた。
卑猥な雰囲気を漂わせる赤いシーツのベッドに横たわる政宗は、何とも言いがたい色香を放っている。
宴会に参加していた中の数名に強引に飲まされて、結果潰れた政宗がお持ち帰りされようとしているのを数少ない友人から聞いた幸村は、考える前に男達をのしていた。小学生の頃から道場に通い、身体を鍛えていた幸村である。相手はただの学生だったので、それはほとんど一方的なものだった。正気に返ってそのことに気がつき、叱ってくだされお館様、と自責の念にかられたのは一瞬であった。それは無力に近い相手に暴力をふるったことよりも、政宗の無事を確認していなかったことによる理由が強い。
政宗は、ちらちらと様子をうかがいながら飲んでいた幸村からでもわかるくらいに飲まされていた。急性アルコール中毒なんてなっていなければいいが、と道ばたでうずくまっている政宗に近づく。すると、彼女の様子から別の懸念が浮かび上がった。
熱のこもった視線と、荒い呼吸、時折漏れる悩ましげな声は、尋常ではないことがわかる。

「なあ…なんかぁ、すんげえ、むらむらすんらけろぉ」

ろれつの回らない口調で告げられ、慌てて休めるところをと探した結果が今いる安いラブホテルだった。
空調はちゃんと効いているが、体温が上がって暑いのだろう。一枚羽織っていた上着を脱ぎ、その下に着ていたブラウスのボタンを外しているのを見て、さすがに幸村は慌てた。どうやらいかがわしい薬も飲まされている様子で何か処置をしたほうがいいのだろうが、想い人のあられもない姿になかなか手が伸ばせずにいたのだ。
暑いなら水でも飲ませるか、と洗面所にあったコップに汲んだ水を与えようとベッドの傍らまで近づいて、先ほどまではだけたブラウスから見える胸元をなるべく見ないように、彼女の身体を起こして水を口にさせる。やはり、発汗で喉が渇いていたのだろう。こくこくと喉を鳴らして飲む様子に安心し、コップも空になったので身体を寝かせようとしたとき、するりと首にまわされた腕にその動作が止まった。動揺している隙に、そのまま細腕が幸村をベットへと引き寄せる。なんとかシーツの上に腕をつき、身体が密着するのは避けたが、しかし政宗の火照った頬が近づいてくるのをみてしまった、と思った。
熱を孕んだ唇が幸村の唇に重なる。驚愕でうろたえ、緩んだ顎は侵入して来た舌を拒むことが出来ず、口内を蹂躙された。
拒めばいい。相手はか弱い女性である。この腕を振りほどくことなど容易いことだ。だが、胸に仕舞い込んでいた想いが、そうさせなかった。
自然と幸村の腕が政宗の髪に伸びる。さらり、と絹のような手触りを楽しみながら、後頭部に手を差しいれれば、相手の応じるような仕草に満足したのか、政宗の口づけが深さを増した。それに比例するように高まる熱に、酒を飲んだ上にいかがわしい薬を飲まされていたのだった、と思い出す。
薬を抜くためだ、と自分に言い聞かせながら、第3ボタンまで開かれたブラウスに手を伸ばす。そんな理由で正当性を主張する自身に、多少の嫌悪感を感じながら。

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